トリックスターのおはなし

 おそらの月はどのようにして出来たのか。北欧神話ではありません。


 昔々、まだ空に月が無かった頃。月はどこにあったかと言うと、とある男の家にある箱の中に大事にしまわれていました。

 男には一人娘がおりました。ある時、娘は子を身篭ります。
 生まれてきた子供は黒い肌をしており、鼻は曲がっていました。そのような外見でも、男は子供をかわいがります。愛情を注ぐのに美醜はいらなかったか、あるいは初孫補正があったのでしょう。

 言葉も話せるようになった子供は、あれが欲しいこれが欲しいと駄々をこねるようになります。男は子供が欲しがるものをホイホイと与えます。
 ある時「月が欲しい」と子供に言われたので、男は月を箱から取り出して与えます。すると子供は月を煙突に向かって放り投げてしまいました。
 空高く投げられた月は、それから夜空を照らすようになったのです。

 娘が生んだ子供はただの子供ではありませんでした。とあるカラスが、人間の赤子となって生まれてきた姿だったのです。肌の色と鼻の形は本来の姿が影響していたのでしょう。
 カラスは月を男の家から持ち出すために、葉っぱに化けて娘の口の中に入り込み彼女の子供になることで、まんまと持ち出すことが出来たのでした。


 どこの伝承だったか忘れましたが、トリックスター関連の話を探していた時に見つけたものです。記憶が曖昧なため、違う部分があるかもしれません。トリックスターが葉っぱに化けて人間の子供になったことと、月を放り投げる部分は間違いないはずですが……。

 この類の話は読んでて面白いので、出来ればもっと紹介していきたいな。