元ネタはどこ?

 本によって微妙に異なる、北欧神話の元ネタを整理。エッダ―古代北欧歌謡集を参考にしました。

ロキは半神半巨人?

 巨人族であったり、神と巨人のハーフだったりするロキ。何で本ごとに違っているんだろう。

ロキ、またはロプトといい、巨人ファールバウティの息子だ。彼の母が、ラウフェイ、別名ナールで、ビューレイストとヘルブリンディが彼の兄弟だ。ロキは容貌は美しいのだが、性質がひねくれていて、行動がひどく気まぐれなのだ。(ギュルヴィたぶらかし)

 ロキの両親についての記述。この文から父親が巨人族であることは確定するが、ラウフェイが巨人族であるかがはっきりしないため、本ごとに異なってくるのだろう。
 巨人族は醜いものとして描かれることが多い(ゲルドなどの例外もあるが)ため、容姿の優れたロキには神の血が混ざっているのだと解釈したのではないだろうか。

フェンリルたちの母親

 ロキとアングルボダの間に生まれた説と、ロキが生んだ説がある。

 ロキはアングルボザと狼を生み、スファジルファリとの間にスレイプニルを生んだ。一人の魔女が何より恐ろしい。それはビューレイストの兄(ロキ)から生れたのだ。

 ロキは半焼けの女の心臓を見つけ、菩提樹で焼いた心臓を食べた。ロプト(ロキ)は性悪の女のため、孕んで、そのときからというもの地上にありとあらゆる怪物が生まれでた。

(ヒュンドラの歌)

 なお、ギュルヴィたぶらかしには女巨人アングルボザとの間にフェンリル、ヨルムンガンド、ヘルが生まれたという旨の記述がある。
 「狼」と「魔女」と「怪物」について、名前が出ていないのが気になるところ。前後の記述を無視すれば、「狼」はフェンリル、「魔女」はヘル、「怪物」がヨルムンガンドという見方も出来そうな。

ハティの父親はフェンリル?

 どこかで見たので、根拠となるエッダの記述を探してみた。
 以下はハティに関する記述。

 東の、イアールンヴィズに一人の老婆がいて、フェンリルの一族を生んだ。彼らの中の一人が、怪物の姿をして、日を呑みこむ者になるのだ。(巫女の予言)

 (略)もう一頭の狼は、フローズヴィトニルの子ハティで、麗しい天の花嫁の前を走らねばならぬ。(グリームニルの歌)

 巫女の予言をそのまま読めばハティ=フェンリルの子という意味にとれるが、北欧神話にはケニングがある。個人的には「フェンリルの一族」は狼を指すケニングではないかと考えている。下のような一節もある。

 ミルガルズの東の、イアールンヴィズという森に一人の女巨人が住んでいる。この森にイアールンヴィジュルという魔女達が住んでいる。ところで、この女巨人がたくさん巨人を産み落したのだが、それがそろいもそろって狼の姿をしているのだ。(ギュルヴィたぶらかし)

 また、フェンリルの別名に「フローズルヴィトニル」というのがあるのだが、グリームニルの歌に登場する名と若干異なる。「フローズヴィトニル」の意味は「悪評高き狼」であり、フェンリルのイメージには合致するのだが……。

 北欧神話やサガにおいては同名の別人が登場するのは珍しくない。「フェンリルの子ハティ」のような記述が無い以上、別個体の狼を指している可能性は高い。