鳥と蛇、蜜酒と甘露(1)

神話には鳥と蛇がよく出てくる

 ポケモンXYの伝説ポケモンは、北欧神話に登場する動物がモデルと言われています。パッケージを飾るイベルタルとゼルネアスはそれぞれ鷲と鹿ですが、本来は第三の伝説ポケモンのジガルデ(蛇)がゼルネアスの位置だったのではないか?という記事を過去に書きました。

 古今東西の神話や伝承を見てみると、蛇と鳥の対立は数多く現れます。北欧神話やインド神話、そして神という概念が生まれるよりも前と思われる伝承にも。聖書にもアダムとイヴを唆した蛇がいますし、(方向性は違いますが)天使は翼を持ったイメージで描かれることが多いです。
 昔の人々にとって、この二つの存在は神秘を感じさせるものだったのだろうと思います。

 この類の話の有名どころといえば、インド神話のガルーダとナーガがその一つに挙がると思います。そして、この物語によく似た要素が北欧神話にもありました。今回はそれらの物語の概要を追いつつ、類似点を見ていきます。

二つの神話の共通点

 先に挙げたガルーダとナーガの話は、アムリタという不死の甘露を巡る物語です。ガルーダは金色に輝く神鳥で、ナーガ族に騙され奴隷となった母を解放するため、神々のもとからアムリタを奪います。アムリタがナーガ族の手に渡ることはありませんでしたが、ヴィシュヌはガルーダの勇気と力を称え、以降ガルーダを乗り物としたそうです。

 この話とよく似ているのが、北欧神話の「詩の蜜酒」にまつわる話です。スットゥングという巨人が隠している詩の蜜酒をオーディンが奸計を巡らせて手に入れる、というものです。
 二つの話には「二種族間の戦争と休戦」「鳥と蛇」が共通しています。類似点を一つずつ見ていきましょう。

飲み物の由来(北欧神話)

 一つ目の「二種族間の戦争と休戦」について、まず北欧神話から追っていきましょう。

 詩の蜜酒については、最初の戦争とされるアース神族とヴァン神族の争いにまで遡ります。
 彼らが何故戦を始めたのかは、よくわかっていません。グルヴェイグという女性が関わっているらしい、という程度です。彼女についての情報も少ないのですが、良くないまじないを行使した、三度槍に貫かれ焼かれてもその度に蘇ったなど、記述は少ないながらも不気味な印象を受けます。

 双方の領地を荒廃させるほど続いた戦は、休戦という形で終わりました。二つの神族は休戦と友好の印として一つの壺の中に唾を吐き、その唾からクヴァシルという男を創りました。彼は答えることの出来ない質問は無いと言われるほど賢かったと言われています。
 しかし、クヴァシルはドヴェルグの兄弟フィアラルとガラルに殺されてしまいます。彼らはクヴァシルの血で酒を作りました……これが詩の蜜酒です。飲んだ者に備わる詩の才能は、クヴァシルの賢さが源なのでしょう。
 更にドヴェルグ兄弟は巨人の夫婦も殺害するのですが、その息子スットゥングは計略にかからず、脅された兄弟は賠償として蜜酒を差し出します。スットゥングは手に入れた蜜酒を洞窟に隠し、詩の蜜酒は彼のものとなりました。

飲み物の由来(インド神話

 アムリタは、乳海攪拌という天地創造神話の最後に生じたものです。

 インドの神々(デーヴァ)はドゥルヴァーサという賢者の怒りに触れ、呪いをかけられてしまいます。神の威光は失われ世界は荒廃し、隙を見て攻め込んできたアスラ族との戦いが始まりました。疲弊した神々がヴィシュヌ(特にえらい神様)に助言を請うと、不死の飲み物すなわちアムリタを創ると良いと言われました。
 そこで神々は、巨大なマンダラ山にヴァスキというこれまた巨大な蛇を縄代わりに巻きつけて、アスラ族とともにマンダラ山を回しました。世界は海に飲み込まれ、千年をかけて乳海からあらゆるものが生まれました。そして最後に出てきたダヌヴァンダリという神が持つ壺の中に、アムリタが入っていたのです。
 その後アムリタを巡ってアスラ族と再び戦いになったりしましたが、結果的には神々のものになりました。

 アース神族とヴァン神族、デーヴァとアスラ。二つの種族が対立し後に和睦するという点。そしてグルヴェイグとドルヴァーサ、争いのきっかけとして、まじないを行使する者が関わっているところも共通点になりそうです。
 もう一つ興味深いのは、最終的な飲物の所有者でしょうか。神々がアムリタを手に入れたのに対して、詩の蜜酒は巨人族に渡っています。フレースヴェルグの正体でも触れましたが、巨人族は神話において神と人を脅かす存在です。

 この違いについては、一つ考えられる仮説があります。ヨーロッパ圏と一部のアジア圏は言語に共通性があり、元々は同じ民族でありそこから分化したという仮説があります(インド・ヨーロッパ語族、印欧語族)。神話も同様に、同じものから分かれたと言われています。
 アスラが仏教に取り込まれて阿修羅となったように、北欧圏におけるアスラがアース神族なのではないでしょうか。そうすると、神秘の飲物を得られなかったこととも合致します。

 二つ目の「鳥と蛇」はまた別のエピソードに登場するのですが、こちらについてはまた後日まとめます(決して飽きたわけではない)

2024/03/24