ゼルネアスとジガルデ逆だったんじゃね説

カロスの伝説って何かしっくりしない

タイプ相性・モチーフとあってない気がする

 カロス地方には三体の伝説ポケモンが存在する。生命を与えるゼルネアスと奪うイベルタル。そして生態系が崩れた時、秩序を脅かす者を排除するために現れるのがジガルデだ。
 直接的な言及は無いが、ジガルデは二体がもたらす再生と破壊のバランスを保つのが役割と考えられる。特性「オーラブレイク」はゼルネアス達の特性を弱める効果があることからも、その可能性が濃いだろう。
 この関係性について、疑問に思ったことはないだろうか。「ジガルデって、本当に他の二体を抑えることが出来るの?」と……。

 タイプ相性から見ると、ジガルデの地面タイプはイベルタルに、ドラゴンタイプはゼルネアスに無効化されてしまう。タイプ相性が全てとは言わないが、ジガルデは基礎能力から不利な面に立っている。
 ジガルデには一応飛行タイプにも命中する専用技やフォルムチェンジ能力があるが、フォルムチェンジは(システム上)オーラブレイクとの両立は不可能だ。加えてこれらはサンムーンになってから追加されたもので、カロス地方の世代のジガルデはこれらの能力を持っていない。

 この微妙な感じは、三体のモデルについても同様だ。彼らは北欧神話に登場する動物がモデルになっていると考えられる。

  • ゼルネアス=鹿と世界樹(樹木の姿で休眠するため)
  • イベルタル=フレースヴェルグ(巨人が姿を変えた大鷲。世界樹にいる鷲とも同一視される)
  • ジガルデ=ニドヘグ(世界樹の根をかじる蛇)

 このうち、フレースヴェルグとニドヘグは互いに険悪という関係がある。元ネタに沿うならイベルタルとジガルデが対になるんじゃね?とか思ってしまう。
 何でも元ネタの通りにする必然性は無いのだが、前述のタイプを考えると、やっぱりこの三体の関係ってしっくり来ないなあと思うのである。

他の伝説に比べて薄い気がする

 カロスの伝説は、どうにも他の地方(特に過去作)と比べてインパクトが弱いような気がする。
 ダイヤモンド・パールのシンオウ神話は実在の伝承を下敷きにしつつ、プラチナでの追加要素を含めて壮大な世界観を感じさせるものだった。イッシュ地方のレシラムとゼクロムにまつわる建国伝説は、理想と真実というキーワードに様々な対立軸を内包すると同時に、伝説を軸にしたストーリーを展開している。
 過去作の伝説はかなり多面的な要素を持っていたのだが、カロス伝説に見出せるのは「破壊の再生のサイクル」という要素一つのみである。加えて、作中での伝説ポケモンの役割といえば最終兵器のエネルギーのみ。カロスの伝説と絡む描写は特に無く、ゼルネアス達の伝説と最終兵器に関わる戦争は結び付かず宙に浮いてしまっている。

 他のシリーズ作の伝説には複数のモデルがあるのに対し、カロス伝説はほぼ一つに限定されているのも厚みを損なっている要因ではないかと思う。
 限定しうる要因としては、ゼルネアスが鹿の姿をしているのが大きな割合を占めている。世界各地の伝承を見てみると、鳥と蛇に比べて鹿の姿を取ったものは数が少ない。参考までに、ウィキペディア日本語版での記事数を見ると、鳥は67蛇は107、そして鹿は5である(2022/4時点)。知名度が低く知られていない伝説もあるだろうが、それでも大きな偏りがあるのは事実だ。
 仮にこの対立軸がイベルタルとジガルデだったならば、インド神話のガルーダとナーガをはじめとした鳥と蛇(竜)の対立を描いた伝承を連想出来ただろう。
 余談だがこの二種族にまつわる話として、アムリタ(神々が造った不死をもたらす飲物)を奪い合う話がある。またアムリタは世界創造、鳥と蛇にまつわる不死という点から考えると、AZの長命はここに着想を得たのかもしれない。

ゼルネアスとジガルデを入れ替えるとしっくりくる気がする

 ゼルネアスとジガルデを入れ替えるとどうだろうか。
 タイプ相性で見た場合、ゼルネアスはイベルタルの悪タイプを半減、ジガルデのドラゴンを無効化することが出来る。加えて、ゼルネアスのフェアリータイプは、イベルタルの悪、ジガルデのドラゴンに対し抜群を取れる。ゼルネアスは他の二体にタイプ相性で優位に立っている。

 モデルの観点からもこの組み合わせを考えてみる。イベルタルとジガルデが対立する構図は一致している。また、ゼルネアスを世界樹として捉えた場合、世界そのものの意思が働くことで秩序が保たれるという解釈も可能だ。
 更に、ゼルネアスは自身のモチーフに再生と破壊の属性を持ち合わせている。鹿は角が生え変わる生態から、再生と豊穣の象徴として見なされてきた歴史を持つが、北欧神話においては世界樹の葉を食む(奪う)存在でもある。このように考えると、ゼルネアスは単独で完成されている存在であると思われる。

 やはりゼルネアスがZのほうがおさまりが良い気がするし、先に述べたように鳥と蛇であれば他の神話を参考にスケールを広げることも出来たはずだ。本作ではこのような組み合わせにしなかったのか? その理由を考えていく。
 なお、ゲーム制作環境などはまったく知らんので完全な想像です。

ポケットモンスターXYは、あらゆる面で転換期だった

 ポケモンXYは、シリーズを通して一つの転換期にあった作品ではないかと思う。特に大きいのはハードがニンテンドー3DSに移ったことだ。
 それまでのポケモン(ダイパ、BW)では一部のイベントシーンが3Dだったが、XY以降はマップ移動やバトルなどのほぼ全編が3Dで描画されるようになった。DS最後のポケモンであるBW2のドット絵も一つの極地だが、表現の幅では3Dグラフィックに軍配が上がるだろう。

 描けるものが増えたということは、埋めなければならない余白が増えたとも言える。ドット絵の頃は、そういった余白はプレイヤーの想像力で補われていた。しかし3DCGになったことにより、舞台となる地方を組み上げるには、世界観を崩さないようにあらゆる全てを作り込まなくてはならなくなった。そこを疎かにしてしまうとプレイヤーの没入感を削ぐだけでなく、製作時にも問題が起きるだろう。
 ポケモンXYの開発についてのインタビュー「うごく社長が訊く『ポケットモンスター X・Y』」には、石原恒和氏(株式会社ポケモンの代表取締役社長)のこのような発言がある。

3Dになることで、
これまであまり意識しなかったところも
ハッキリわかるようになったんです。
たとえば、自分ではしっぽだと思っていたものが
そうでなかったりとか、
「このひげを・・・」と指示しようとしたら、
「それはツノです!」とか言われたりして(笑)。

 3Dへの移行は表現の幅を広げるとともに、ポケモンのデザインや動き、街の外観や何気ないオブジェクト一つにも気を配らなければならない問題も生じたと言える。
 製作陣の中でのズレを生まないためにも、ポケモンの世界観をどう作っていくかを見直す必要が出て来た。その過程の中で、ポケモンシリーズにおいて重要な要素の「伝説」に関しても、大きな変革を迫られたのではないだろうか。

XYを境に変わった伝説

パッケージポケモン=ドラゴンからの脱却

 ジガルデが外れた最も大きな理由はこれではないかと考える。XYより前を振り返れば、ダイヤモンド・パール(とプラチナ)、そしてブラック・ホワイトと続編の2と、パッケージをドラゴンタイプのポケモンが飾るシリーズが続いていた。マイナーチェンジのエメラルドも含めると三世代(期間で言えば八年)もの間、ドラゴンタイプのポケモンがパッケージに居続けたことになる。

 ポケモンシリーズは常に新しい要素を提供してきた。先に述べた転換点の中で、おそらくパッケージポケモンに関しても見直しを図ったのではないかと思う。実際のところ、XY発表とともにゼルネアス達の姿が公開された時には、新鮮に感じた記憶がある。

 ドラゴンを出さないのではなく、使い方を変えたと言った方が正しいだろうか。パッケージを飾らない伝説ポケモン(ウルトラネクロズマ、ムゲンダイナなど)にあてており、ドラゴンの「強い」イメージを延ばす方面に向かっている。
 一方で、XYでは「最弱のドラゴン」ことヌメラも登場しており、ドラゴンタイプの印象を広げようと模索していたのかもしれない。

伝説の方針転換

 ポケモンXYを境に、伝説ポケモンについても変化している。
 XYでは三千年前に起きた戦争の当事者が作中に登場し、サンムーンのアローラ地方には現在進行形で崇められている守り神がいる。そしてソードシールドでは、ブラックナイトと剣と盾の英雄という作中の伝説がストーリーで再現された。こうしてまとめてみると、XY以降はポケモン世界に伝説の起源となった出来事があると明示されている。
 これは先に述べたように、ポケモンの世界観を構築し直すうえでの転換を図ったのではないだろうか。余白を少なくして世界観の解像度を上げるために、伝説の描き方をいわゆるファンタジー的なものに寄せたのだと考えている。

 しかしXYにおいては、その方針転換による弊害が生じた。XYは様々な転換点であり、先に述べた事実に加えて最初の全世界同時発売も行われている。そのために伝説の掘り下げをするだけの制作リソースが無かったのではないだろうか(あくまで想像だが)。

 それではこの転換は失敗だったかと言えば、否だろう。AZとフラエッテの再会、サンムーンのほしぐもちゃんを巡る物語など、ドラマ性が増したのもまた事実である。そして最新作のLEGENDSアルセウスでは、シンオウ神話の本来の要素を損なうことなく「古代の英雄」の活躍を再現した物語を描いてきた。これがポケモンの世界観を見直し、新しさと面白さを求め続けた先に結実したものであるということに異論は無いと思う。
 XYのちぐはぐは、製作陣がポケモンシリーズを続けるために苦心してきたことの現れ……なのかもしれない。

XYリメイクはよ

 アニメや後発作品で補足がなされたジガルデだが、ゼルネアスやイベルタルと対峙するシチュエーションはまだ描かれていない。
 LEGENDSアルセウスでシンオウ神話を再構成したように、カロスの神話やジガルデ達の伝説も再び描かれることを期待したいところだ。

(2023/03/24)LEGENDSおめでとう! ついでに鳥と蛇についてちょっと考えてみました

2022/03/29