レシラム・ゼクロム考察(前編)

二匹の竜の起源

 レシラムとゼクロム、二匹のドラゴンポケモンはイッシュ地方の伝説ポケモン代表とも言えるだろう。英雄と呼ばれた人間と共に戦ったとも、イッシュを滅ぼしたとも伝わっており、イッシュにおいて中心的な存在であることは容易に推測できる。
 とは言え、イッシュの伝説・神話はやや断片的である。いったん情報を整理してみよう。

  1. レシラム、ゼクロムはもとは一体のポケモンだった
  2. 分かれる前のポケモンは、双子の英雄と協力してイッシュ地方で新しい国を作った
  3. 双子が仲違いし、争いを始めた際に二体のポケモンに分かれた
  4. 兄の側についたレシラムは真実を、弟の側についたゼクロムは理想を求める者に従う
  5. 後に双子は戦いを収めたが、子孫が再び争い始めたため、二匹のポケモンはイッシュを焼き尽くした

 イッシュでの伝説の認知度であるが、ヒウンシティでのアイリスの発言から、おそらくほとんどの人が知っているのだろう。しかし、争いの動機やレシラム達の前身であるポケモンといった具体的な内容には触れられていない。簡潔なあらすじであることも加わって、後半は少々寓話的な意味合いが強いように思える。

 個人的に興味深いのは、一体のポケモンが分裂して生まれたという点だ。少ない情報に仮説を重ねる形になるが、この二体は創世神話を象徴しているように思える。
 レシラムは炎、ゼクロムは電気=雷を体から放つ能力を持っている。炎は大地から湧き上がるもの(例えばマグマのように。「火の雨」という表現はあるが、イッシュでは火の雨が降ったという伝説は無いようだ)であるし、雷は天から落ちてくる。すなわち、レシラムは大地、ゼクロムは天の象徴なのではないだろうか。

 神話において、世界創造に関係する存在としてよく取り上げられるのが「地母神」と「天空神」である。彼らが天地のどちらに属するのかはその名が示す通りであり、地母神は女性=母、天空神は男性=父の人格を持っているようだ。
 レシラムの全体的に細いフォルムは女性を、逆に体格のいいゼクロムは男性を思わせる姿である。

 また、元は一つであった存在が分かれたというのも、ある種の巨人解体神話に似たものを感じさせる。アステカ神話では巨大な大地の神トラリテクトリが、その体を二つに裂かれて天と大地になったという。
 イッシュの建国伝説は、創世神話の変形したものなのかもしれない。

イッシュを滅ぼしたものの正体

 ここまで考察したところで、レシラムとゼクロムがイッシュを焼き尽くしたという伝説について、一つの仮説が浮かんできた。イッシュのポケモン図鑑を見てみると、ウルガモスの説明に気になるものがあった。

 かざんばいで ちじょうが まっくらに なったとき ウルガモスの ほのおが たいようの かわりに なったという。 (ブラック)

 また、タウンマップにはこのような記述がある。

 リゾートデザートと じつづきだったと してきする けんきゅうしゃも いる(18番道路)

 この二つが示唆するものは火山活動だ。リゾートデザートと18番道路はかなり離れているから、相当な規模のものだったと思われる。イッシュには火山と思しき場所は無いため、既に休火山になっているのだろう。

 建国伝説やコバルオン達など、イッシュに残された伝説には戦争にまつわるものが多い。おそらく、昔は幾度も戦が起きていたのかもしれない。
 現在のイッシュ地方が人とポケモンが助け合うようになったのは、レシラムとゼクロムが一度イッシュを滅ぼした伝説が背景にあると推測できる。そしてその伝説の起源は、火山にあるのではないだろうか。

 地形を大きく変えるほどの噴火ならば、それこそイッシュ全体を「焼き尽くす」ような規模だったかもしれない。更に、噴火の際には「火山雷」と呼ばれる現象が伴うことがある。
 大地から吹き上がるマグマと、空を覆う黒い火山灰と雷。これらを目の当たりにした人々は、そこにレシラムとゼクロムの怒りを見たのだろう。

 彼らの怒り――噴火は、イッシュ地方に相当深い爪あとを残したはずだ。リゾートデザートに眠る砂に埋もれた城や、サザナミタウンの海底遺跡がそれなのかもしれない。
 人間もポケモンも争うことなく協力し合うことが出来たからこそ、イッシュが現在のような平穏を得られたのだろう。伝説の通りならば、二者を繋いだのはレシラムとゼクロムだ。

 建国伝説は、互いに認め合い協力し合うことの大切さを教える話として伝えられているのではないだろうか。レシラムとゼクロムは、人とポケモンの共存を象徴する存在なのだ。たとえイッシュを滅ぼした者であったとしても。

2011/09/05