レシラム・ゼクロム考察(後編)

二匹が象徴するもの

 前回はレシラムとゼクロムの背景について考察した。今回は、二匹のドラゴンポケモンが象徴する「真実」と「理想」について考えてみよう。

しん‐じつ【真実】

  1. うそ偽りのないこと。本当のこと。また、そのさま。まこと。「―を述べる」「―な気持ち」
  2. 仏語。絶対の真理。真如。

り‐そう〔‐サウ〕【理想】

  1. 人が心に描き求め続ける、それ以上望むところのない完全なもの。そうあってほしいと思う最高の状態。「―を高く掲げる」⇔現実。
  2. 理性によって考えうる最も完全な状態。また、実現したいと願う最善の目標あるいは状態。

goo辞書 国語辞典より

 改めて考えてみると、「真実」と「理想」というのは曖昧なものに思える。そもそも対立する概念ではないし、真実(あるいは理想)を求める者、というのも今ひとつピンとこない。
 国を創ったという伝説上の英雄の存在、そして本編でポケモンの開放を確固たる目的として行動していたNに従った事実から、レシラム達は何らかの強い意志を持った者に応えるものと推測できる。そして伝説のポケモンを従えた人間=英雄の象徴たるものが「真実」と「理想」なのではないか、と。

 ここで気になってくるのが、Nが従えたポケモンだ。彼はブラックではゼクロム、ホワイトではレシラムを得ている。つまり彼の目的は「真実」と「理想」のどちらにもなりうるということだ。
 その理由は何なのか……結局、「真実」と「理想」とは何かという疑問に戻ってきてしまう。イッシュ伝説から得られる情報だけでは、この謎を解くことは難しいようだ。

真実と理想に隠された意味

 イッシュ地方に目を向けてみたところ、一つヒントになりそうな材料があった。ソウリュウシティの存在だ。ドラゴンタイプの使い手であるジムリーダーがおり、二つのバージョンでまったく異なる外観を持った町でもある。
 かつて一つのポケモンだったとされるレシラムとゼクロム、同名でありながら二つの姿を持つ町。「ドラゴン」が共通する点といい、いかにも関わりがありそうだ。

 この町にある民家で起きるイベントも興味深い。電気タイプの技「じゅうでん」を覚えたポケモンを譲って欲しいと頼まれるのだが、もう一つ「異なるバージョンで捕まえたポケモンである」という条件が必要になる。なお、ブラックでは「古びた都市」、ホワイトでは「未来の都市」がある世界という言葉によってヒントが提示されている。

 これらの情報から、ブラックは未来、ホワイトは過去を示していると読み取れる。これがイッシュ伝説にも関わってくるのではないだろうか? 「真実」と「理想」は、対立する時間の概念を表しているものなのかもしれない。

 結論から言うと、レシラム達は「革命」の象徴だと思われる。英雄が行った建国や、ポケモンと人の繋がりの形を変えようとしたNの行動は、それまでの世界を大きく変えるであろうことは想像に難くない。
 かつて存在した「真実」――過去への回帰か、もしくは形無き「理想」の実現――新しい未来を求めるか。強い信念を持って革命を成しうる人間に、伝説のドラゴンポケモンが呼応するのではないだろうか。
 Nの願いは、モンスターボールの無かった時代を再現することだったのかもしれない。或いは、これまでに無い全く新しい在り方を実現しようとしていたのかもしれない。「真実」にも「理想」にもなりうる信念だから、どちらのポケモンが応えてもおかしくないというわけだ。

 そうすると、主人公に従ったポケモンは何に応えたのか、という疑問が浮かぶ。プレイヤーの移し身である彼(彼女)は、Nのように革命を起こそうとしたわけではない。一体何が伝説のポケモンを目覚めさせたのだろうか?
 これについては、革命を成そうとする者が英雄たりうる人物であるのかを試す、試練のようなものではないかと考える。

 主人公の行動に理由をつけるとすれば、Nによるポケモンの開放=革命を阻止する、といったところだろう。

 過去を目指す者には未来として、未来を目指す者には過去として、もう一人の英雄が立ちはだかる。試練のために、二人目の英雄と伝説のポケモンは目覚めるのだ。

三体目のドラゴンポケモン

 イッシュにはもう一体、伝説のドラゴンポケモンがいる。「きょうかいポケモン」キュレムだ。彼の正体については、ここまでの考察を踏まえると大体の見当が付く。
 キュレムは過去と未来の「境界」、つまり現在なのだろう。伝説にも姿を現さず、世界を見守り続ける凍てついたドラゴンポケモンは、いかなる役目を持っていたのか。残念ながら、この謎を探る術は無い。

余談

 今月(2012年3月)、ポケモンの最新作として「ブラック2」と「ホワイト2」の発表と同時に、キュレムの新しい姿と思われる「ブラックキュレム」「ホワイトキュレム」も公開された。
 現在が姿を変えて過去あるいは未来となる……まるで、革命の成就を意味しているかのように思えるが……?

 さらに余談

2022/04/03 レシラムとゼクロムが内包する対立軸

 前半の考察において、レシラムは地母神、ゼクロムは天空神の属性を持っていると考えたが、この属性もまた対立する思想を表している可能性がある。
 地母神はユング心理学で「太母(グレートマザー)」と呼ばれる心理のあらわれともされている。グレートマザーは子を庇護する母親像であると同時に、子を縛り付けようとする負の側面も持つ。神話や伝説においても、自らの子を守る女神や、英雄に打ち倒される怪物としてグレートマザーの像が現れているという解釈もある。
 では、ゼクロムの天空神はどうだろうか。ユング心理学では父性は「老賢者(オールドワイズマン)」とされ、学者などの権威ある存在として現れる。父性は子を導き自立を促す一方で、負の側面が現れれば、その権力をもって支配下に置こうとする。ちなみにオールドワイズマンが夢に現れる形の一つに「稲妻」があるという(さすがに偶然だろうが)。

 レシラムとゼクロムは、英雄を守り導く存在であると同時に、彼らを束縛し支配しようとする父母性の暗示でもあるのかもしれない。
 理想と現実、黒と白、陰と陽……長い長い時代の中で、二体のドラゴンは様々な形で相対してきたのだろうか。


 イッシュ伝説について、2の情報を含めた再考察を追加しています。イッシュ再考察(前)


2012/03/11