もっと考えてみる(3)~シンオウ編~

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神話の影を追う

 シンオウ地方に伝わる神話については、既にいくつかの考察を行ってきた。今回は別の視点からの材料を探ってみよう。

 シンオウ地方は現実の北海道をモデルにしていることもあって、各所で積雪が見られる寒冷地方だ。マイナーチェンジのプラチナでは、フタバタウンにも積雪が確認できる。シンオウ地方にある町の中では最も南に位置しているので、ほぼ全域で積雪があると見て良さそうだ。
 これだけ寒い地域であれば、大昔は食料の確保は困難を極めたと思われる。ポケモンを食する文化が生まれた要因であろう。

 現実の北海道においても、アイヌ民族の間に「イオマンテ」と呼ばれる慣習がある。ヒグマ等の動物を屠殺した後の肉や毛皮をいただき、恵みをもたらした神を祀る。ポケモンを食した後の骨を水に送るシンオウ神話の儀式はこれをモデルにしているようだ。(かなり前になりますが、メールで情報をいただきました。ありがとうございます)

 別のページでも触れているが、イオマンテよりも直接のモチーフになっていると思われる儀式が存在する。アイヌ民族には鮭の下顎の骨を川に返す風習が、北米インディアンなどの狩猟採集民族の間には、鮭の骨を川に返す風習がある。

 シンオウ地方においても、ポケモンを神(あるいはそれに近いもの)として見る価値観があったとすれば、ポケモンを中心とする神話が生まれるのも必然に思われる。

むかし シンオウが できたとき
ポケモンと ひとは
おたがいに ものを おくり
ものを おくられ ささえあっていた
そこで ある ポケモンは
いつも ひとを たすけてやるため
ひとの まえに あらわれるよう
ほかの ポケモンに はなした
それからだ
ひとが くさむらに はいると
ポケモンが とびだすようになったのは

 ミオ図書館にある「シンオウちほうの しんわ」にある記述であるが、「ものを おくり(おくられ)」がポケモンを食料とする行為を指しているとすると、人がポケモンに食べられることもあったのではないだろうか……。

人とポケモンの関係性

 シンオウ神話はポケモンを中心とする一方で、人間はほとんど登場しない。トバリの神話やミオ図書館の記述にわずかに見られる程度である。
 自分達(人間)はいかにして生まれたのか。その疑問に対して解を与えるのも神話の重要な役割である。ド定番ネタと言ってもいいのだが、何故かシンオウ地方には人間の由来を具体的に語る神話が見当たらない。ポケットモンスターという作品上、ポケモンの方にスポットが当たるのは必然であり、仕方のない面もあるが……。
 ただ、ミオ図書館にある神話にヒントと思しきものはある。

「シンオウ むかしばなし その2」

もりのなかで くらす
ポケモンが いた
もりのなかで ポケモンは かわをぬぎ
ひとにもどっては ねむり
また ポケモンの かわをまとい
むらに やってくるのだった

「シンオウ むかしばなし その3」

ひとと けっこんした ポケモンがいた
ポケモンと けっこんした ひとがいた
むかしは ひとも ポケモンも おなじだったから ふつうのことだった

 シンオウ昔話には、人とポケモンはかつては同じ存在だったとする記述がある。ここから、世界とともに創造された生命には、ポケモンも人間も含まれていると解釈できるのではないだろうか。
 皮を身にまとうという行為は、現実においてもしばしば見られる。毛皮を被ることでその動物の力を得られる、という考えだ。ポケモンの皮を被ることには「ポケモンになる」他にも、力を借りる目的もあったと考えられる。昔のシンオウ地方には、シャーマン的な役割を果たす者もいたのかもしれない。

 人とポケモンを区別しなかったというのは、それだけポケモンが身近な存在にあったということの裏返しなのだろう。
 世界を創った神であり、共に生まれた生命。また食糧であり、力を借りる相手であり……シンオウ神話が生まれた背景には、一言では言い尽くせない人とポケモンの関係性がありそうだ。

ヒードランに見る、シンオウの闇

 シンオウ……というよりダイヤモンド・パールというシリーズについて、以前から気になっていることがある。ほのおタイプが異様に少ないという点だ。
 最初にもらえるヒコザルと野生で現れるポニータ(とその進化系)、そしてクリア後に登場するヒードラン。ストーリー中に入手できるのは実質二種類と、バランスが悪いどころの話ではない。
 一応プラチナ版では追加があったが、おそらくバランス調整の目的でありメタ的な要素であるので考察では除外させていただく。

 シンオウ神話と絡めて考えると、どうも不自然にも感じられる。雪が多く降るシンオウ地方では、暖を取るのにほのおタイプのポケモンはうってつけではないだろうか。にも関わらず、神話においてヒードランの存在感はほとんど無く、やや腑に落ちない。

 ヒードランは非常に古い時代において崇められていたという可能性はないだろうか。
 シンオウ地方のモデルである北海道といえば、蝦夷(えみし)についても縁がある。その昔、大和朝廷に従わなかった人々を指す言葉なのだが、ポケモン世界における蝦夷こそ、ヒードランを信仰していた存在なのではないだろうか。ギラティナはシンオウ神話の中心から外れても、僅かながら痕跡を残していたが、それが出来なかったのがヒードランだったとしたら、影が薄いことにも説明がつきそうだ。
 ほのおタイプのポケモンが少ないのは、シンオウの蝦夷達が追いやられるとともに、ヒードランと同じタイプのポケモン達も排除されてしまったのが原因ではないだろうか? シンオウ神話よりも遠い昔には、血なまぐさい争いが起きていたのかもしれない。

 ヒードランははがねタイプの複合なのだが、鋼といえば、以前の考察で引用した「トバリ のしんわ」に登場する「つるぎ」の材料である点も気になるところ。シンオウ神話の中で毛色の違って見える二つの存在に共通点があるのは、はたして偶然だろうか。しかし、この神話とヒードランにそれ以上の関連性は見られないため、これ以上掘り下げるのは難しいだろう。

 ちなみに、蝦夷と似たような存在はいくつか挙げられるが、その中の一つに土蜘蛛がいる。土蜘蛛は「土ごもり」を語源とするとされており、山の中に穴を掘って住んでいるらしい。
 土蜘蛛は虫の蜘蛛とは無関係なのだが、ヒードランの姿は見ようによっては蜘蛛にも近いような……まさかね。

2021/02/27