シンオウ神話&シンオウ昔話の考察まとめ

 結構数も増えてきたので、シンオウ神話の考察の総括と各考察へのリンクをまとめました。書いた期間が開いていることもあり、後の考察と辻褄が合っていない箇所もあります。
 リメイク&LEGENDSアルセウスについての考察はトップページからご覧ください。

目次

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シンオウ神話の構造

 ゲーム中で読めるシンオウ神話のテキストに基づくと、大別して二つの時代に分かれていると考えられる。

  1. 狩猟採集生活をしていた頃の信仰にもとづいた伝承(ギラティナ)
  2. 創世神話を中心とした後期の伝承(アルセウス)

 狩猟採集民族の移住から始まり、そして後の時代で創世神話が生まれた。どちらの時代に成立したかわからない神話(後述)もあるが、シンオウ神話が成立した背景はこのような形になっていると思われる。

神話のはじまり(狩猟採集時代)

 古い時代にシンオウへと移住した人々は、現在のズイタウン、トバリシティ近辺で狩猟採集生活を営んでいた。彼らの間に信仰が生まれるまでには、ギラティナが影響を与えた可能性が高い。

 人々は、ギラティナを起源に生まれた信仰を持って生活圏を広げ、その過程で湖ポケモン達への信仰も生まれた。ギラティナと湖のポケモンは、やぶれた世界(=冥界)とこの世界を繋ぎ、この世の生死を司どると考えられていた。

 シンオウ神話の根幹をなす神話が生まれた時期であるが、この時代は「トバリの神話」の背景にある異変によって転換点を迎え、そして終焉に至る。

狩猟採集時代の遺跡

ズイの遺跡
アンノーン文字が刻まれた壁画以外は、原始的な洞穴に見える。また、アンノーンが古代文字に似ているという情報から、シンオウ地方の中では最も古い遺跡と考えられる。雨風をしのぐための住居だったとするのが妥当なところだろうか。
戻りの洞窟
ギラティナが潜む洞窟。内部には、ズイの遺跡と同じ古代文字の壁画と、明らかに人工の柱が建っている。初期の時代にしては柱が丈夫なつくりのようにも思われるため、時期は前後しているかもしれない。ズイの遺跡の後であることは確実だろうが。

狩猟採集時代の伝承

シンオウ地方の神話
ポケモンが草むらから飛び出すようになった由来の話。助け合い生きていた、と対等な関係を示唆している。動物が人と対等であることは、狩猟採集民族の思想に多く見られる。
アイヌにおいては、カムイである動物達は人間の歓待を受けるために進んで獲物になると考えられている。カナダのとある民族では、夢の中で獲物となる動物と交渉し、その後に狩猟を行うという。シンオウにおいてポケモンが飛び出してくるのは、狩猟を許された合図だったのではないかと考えられる。
シンオウ昔話その1
三つの昔話の詳細な考察については個別ページを参照。
その1は、食した後のポケモン骨を洗い川に流すと、再びこの世に戻って来るという話。LEGENDSアルセウスで登場したイダイトウを合わせると、狩猟採集民族の鮭にまつわる儀礼がベースだろう。
シンオウ昔話その2
森の中で人に戻るポケモンの話。毛皮を身にまとってその動物になる話は狩猟採集民族に多く見られる。原始的な時代、人は動物を自分達と同じ(あるいは近い)存在と考えており、そこから生まれた伝承のようだ。
LEGENDSアルセウスで信仰されている「シンオウさま」の発祥は、この昔話にあるのかもしれない。
シンオウ昔話その3
人とポケモンが結婚していた話、いわゆる異類婚姻譚と呼ばれるもの。
狩猟採集民族の間に伝わる異類婚姻譚は、その2で述べた「人と動物は同じ」の延長に生まれたものではないかと思われる。
トバリの神話
先述の神話も含めて、これらの伝承はアイヌ民族の信仰をベースとした話である可能性が濃い。
ただ、トバリの神話に関しては明らかに原型から変化している。詳細は個別考察にあるので省略するが、初期に生まれた伝承が後述するトバリの異変を境に、内容が変化したとするのが妥当だろう。

神話、信仰の転換点

 創世神話の時代に入る前に、前述したシンオウの狩猟採集民に起きたことを語らなければならない。
 シンオウ地方……正確にはトバリ周辺で何らかの異変が起き、それによって人々は狩猟採集の生活を行うことが出来なくなった。彼らは新天地を求めてシンオウを放浪し、その一部がジョウト地方に渡り、シント遺跡を建造した(この時に、ズイの遺跡にいたアンノーンも一緒に渡ったのかもしれない)
 現代に伝わるシンオウ神話にギラティナが不在なのは、ギラティナが限られた地域かつ限られた時期で信仰されていたため、伝承が統合される前に失伝してしまったためと思われる。

 トバリの異変を境にシンオウの人々の生活は狩猟採集中心から変化するのだが、実際にどう変わったかは情報が無く不明である。ズイタウンには牧場があったらしいが、ヒスイ地方の地図にはそれらしきものは見られない。LEGENDSアルセウスの時代より前の話であれば、異変が起きた頃は牧畜文化(農耕も?)が生まれつつあった時期なのかもしれない。
 後の創世神話に湖のポケモンが含まれていることから、伝承は完全に途絶えたわけではないことは確かである。

創世神話の時代

 創世神話が生まれるのは、多くは後の時代になってからである。ギラティナがいないこと、ディアルガが司るのが「時間」という点から、シンオウの創世神話も先述の狩猟採集の時代より後に出来た可能性が高い。
 テンガン山頂の「やりのはしら」は、この前後に造られていると思われる。

 この時代の情報が少ないこともあり、どういった背景をもとに成立したかについては、あまり書くことは出来ない。シンオウ地方の各地や、他の地方から伝わった伝承がハクタイやカンナギで合わさり、現代に伝わるシンオウ神話になったと考えられる程度である。

 来年発売予定の新作「Pokemon LEGENDS アルセウス」は、少なくともこの時代より後になるだろう。

後期の遺跡

槍の柱
テンガン山を中心とした太陽信仰により建てられたものと考えられる。
カンナギの壁画
ディアルガとパルキア、湖のポケモンが描かれている。シンオウ地方各地に散った人々がその土地で伝承を生み、それらがカンナギに集まった結果と考えられる。
ハクタイの銅像
ディアルガとパルキアの姿が合わさったような造形をしている。古い時代のものらしいが、技術レベルを考えるとカンナギの壁画より後とした方が自然かもしれない。

後期の神話

はじまりの話、プレートに刻まれた話
先に述べた通り、創世神話は後の時代に生まれるものである。二つの話に微妙に差異があるのは、時代によって思想が変化した影響と考えられる。
関連:プレート考察追記

その他の伝承について

 上記に述べた以外は、いつ頃成立したのか明確でないもの、伝わる地域が限定されているものになる。

シンオウ神話
「怒るな ??が来るぞ」から始まる、内容が判然としないもの。
神話や伝承の多くは口承で伝えられており、その過程で記録されず消えてしまったり、一部が欠落してしまうこともままある。この話も同様に、一部が欠落した伝承と考えられる。
恐ろしい神話
湖のポケモン達から生まれたと考えられる。ギラティナと違い、彼らの信仰は後期時代にも受け継がれているため、時代の特定は難しい。
関連:湖ポケモン考察追記シンオウ・フィクション2
レジギガスの国引き神話
キッサキに住む人々が、ハードマウンテンの形成から生んだと考えられる。アルセウスとの共通点が複数あることから、創世神話の下地となった可能性もある。
ミオシティの伝承
クレセリアは月の化身、ダークライは闇の化身といったところだろう。時代を遡れば、二体とも信仰される時代があったかもしれない。
海の伝説
リメイクで追加された伝説。この物語については解釈次第だ。トバリの神話の続きとすれば、それと同じく昔から語られていたものが存在してきたと考えられる。あるいは、もとは貴種流離譚だったものが現実の出来事を取り込みながら変化したのかもしれない。

メタ視点から見るシンオウ神話

 神話は人が創るものであること、そして時代と共に変化するものであること。シンオウ神話も現実の神話と同じく人が創り、時代を経て変化してきたものという背景がある。このことは、プラチナ版の哲学者イベント(外部サイトへ)でも示唆されている。

 シンオウ神話では、時間と空間と心の三つが特に強調されている。神話だけでなく、ミオ図書館周辺のNPCの台詞などでもこれらの単語が登場しているので、製作側も意図していそうだ。
 メタの目線で見ると、シンオウ神話の中心にあるのは神話を生む要素そのものと捉えることも出来る。人の心(感情、知識、意志)から生まれた神話は、時代(時間)と場所(空間)に合わせて変化する。伝えられた神話はその人の心を通じて、また別の時代と場所へ伝わっていく。
 アルセウスのマルチタイプは、無限の神話の形の象徴でもあるのではないだろうか。

考察リンク一覧

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参考文献など

2021/11/07