シンオウ神話を考える~プレート考察~

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プレートの神話

 シンオウ神話を探るにあたって興味深いのがプレートだ。シンオウ地方の各地に散らばっているプレートには、拾った際に意味ありげな一文が表示される。
 プレートに刻まれている文章は以下の通りである。

  1. うちゅう うまれしとき その かけら プレートとする
  2. プレートに あたえた ちから たおした きょじんたちの ちから
  3. そのもの じかん くうかんの 2ひき ぶんしんとして よに はなつ
  4. そのもの じかん くうかんを つなぐ 3びきの ポケモンをも うみだす
  5. 2ひきに もの 3びきに こころ いのり うませ せかい かたちづくる
  6. うちゅう うまれるまえ そのもの ひとり こきゅうする
  7. うまれてくる ポケモン プレートの ちから わけあたえられる
  8. プレート にぎりし もの さまざまに へんげし ちからふるう

 入手する順番に並べると上記のようになるのだが、文脈が繋がらない。意味が通るように並べ替えてみよう。一部の文章はミオ図書館で読める「はじまりのはなし」と似通っている。抜き出して並べると、6→3→4→5の順になる。

 残りの文章(1278)は、他に確認できるシンオウ神話では見られない内容である。そのため文脈から推測するしか無いのだが、共通する「プレート」という単語から、ある程度の見当はつきそうだ。
 先頭はプレートが造られたと思しき記述がある1だろう。2は由来を、7と8は使い道を示しているといったところか。

 プレート握りし者の主語として、前半の「そのもの」と「うまれてくる ポケモン」の二つが考えられるが、おそらく「そのもの」であるアルセウスだろう。変化する、という部分からアルセウスの特性「マルチタイプ」を連想できる。
 昔の人々は、ポケモンが持つタイプの起源がプレートにあると考えたのだろう。
 ここまでの仮説に従って文章を並べ替えると、以下のようになる。

うちゅう うまれるまえ そのもの ひとり こきゅうする
そのもの じかん くうかんの 2ひき ぶんしんとして よに はなつ
そのもの じかん くうかんを つなぐ 3びきの ポケモンをも うみだす
2ひきに もの 3びきに こころ いのり うませ せかい かたちづくる

うちゅう うまれしとき その かけら プレートとする
プレートに あたえた ちから たおした きょじんたちの ちから
プレート にぎりし もの さまざまに へんげし ちからふるう
うまれてくる ポケモン プレートの ちから わけあたえられる

 並べ替え後の5番目の「その かけら」が辻褄が合わなくなるが、「うちゅう」か「せかい」のどちらかを指していると考えるのが妥当だろう。或いは欠落している部分があり、そこに記述があるのかもしれない。

巨人の謎

 プレートの内容を整理したところで、一つ不明な点が残る。プレートに与えられた力の由来である「きょじんたち」である。他の神話にも一切姿を見せないこの存在は何者なのだろうか?

 順当なのは、他の伝説ポケモンであるという説だ。しかし困ったことに、シンオウの伝説ポケモンに該当しそうなものが存在しない。
 名前から巨人を連想できるレジギガス(ギリシア神話にギガースという巨人族がいる)が近いかもしれないが、レジギガスのタイプとプレートが一致しないという問題がある。

 更に、彼は大陸を動かしたという逸話を持っている。いわゆる国引き伝説というものだ。
 世界が生まれていなければ、陸地も存在できない。「うちゅう うまれしとき」にレジギガスが倒されていたのでは、国引き伝説は生まれない。それでは、巨人とは一体何者なのだろうか?

 少し視野を広げてみると、ヒードランが候補に挙がるのではないかという仮説が浮かんだ。
 ヒードランは、「シンオウ地方ができた際にこぼれおちた火の球から、ハードマウンテンとともに生まれ」、「かざんのおきいし」というアイテムで封印されたとされるポケモンである。封印、というくだりは「たおされたきょじん」と符合しそうだ。

 もう一つ興味深いのが、レジギガスがいるキッサキとヒードランのいる島が近い位置にあるという点だ。離れ島と国引き伝説……もしかすると関連があるのでは、と思わせる。
 想像だが、シンオウ神話の中ではレジギガスはアルセウスの側の存在であり、ヒードランをはじめとした「きょじんたち」と戦ったのではないだろうか?
 そして、巨人を封印した土地を大陸から切り離した――かつてはこのような神話が存在し、その一部である国引き伝説がレジギガスにまつわる伝承として残されたのかもしれない。

 「きょじんたち」と複数形であるからには、他にも巨人たるポケモンがいるのは明らかだろう。ヒードランだけではプレートのタイプが不足しているという点もある。
 しかし、シンオウ神話やプレートには他にヒントになりそうな記述が見つからない。結論が曖昧なままで残念だが、プレートについての考察はここまでとする。

2021/04/13 巨人の正体について

 シンオウの伝承を改めて考察する中で、プレートに刻まれた「きょじん」に関する個人的な解答を得るに至ったので追記する。

 ミオ図書館で読むことが出来る「はじまりのしんわ」は、プレートに刻まれている内容と非常に似ている。

はじめに あったのは
こんとんの うねり だけだった
すべてが まざりあい
ちゅうしんに タマゴが あらわれた
こぼれおちた タマゴより
さいしょの ものが うまれでた

さいしょの ものは
ふたつの ぶんしんを つくった
じかんが まわりはじめた
くうかんが ひろがりはじめた
さらに じぶんの からだから
みっつの いのちを うみだした

ふたつの ぶんしんが いのると
もの というものが うまれた
みっつの いのちが いのると
こころ というものが うまれた
せかいが つくりだされたので
さいしょのものは ねむりについた

 二つの伝承には若干の違いが見られ、原初についてはプレートは「そのもの」のみが存在していたとする一方、「はじまりのしんわ」は「混沌のうねりから生まれたタマゴ」がはじまりだったとしている。また、並び変えた後の5行目以降の「きょじん」や「プレート」に関する記述が「はじまりのしんわ」には無い。
 これらの違いは、記録された時代が異なることによって生じたのだろう。おそらくプレートに刻まれているものの方が古く、「はじまりのしんわ」は信仰がある程度確立した以降のものと考えられる。

 例えば一つ目に挙げた原初に関する記述、これは「そのもの(さいしょのもの)」がどこから生じたかを補完しているように見受けられる。プレートの「うちゅう うまれるまえ」が「こんとんの うねり」に対応しているとすれば、プレートの「そのもの」はどうして生まれた? という疑問に対する答になる。

 では、何故「きょじん」に関する事柄が欠落したのか。これに関しては、神話を信仰する人々の文化が変化した故と考えれば辻褄が合う。
 湖ポケモン考察でも少し触れたが、シンオウ神話の根底には「巨人解体型神話(あるいは死体化生神話)」があると推測できる。これは人々がポケモンを食していた、つまり狩猟によって糧を得ている生活様式だったことに由来しているのではないか。昔の人々は、世界が生まれる過程においても、狩猟に近いかたちで資源を得たと考えた。広大な大地を創るには、必然的に膨大な量の資源が必要になる。そのため神に倒された「巨人」が生まれたのだろう。

 世界の源となった巨人は、いわば土や水や植物の起源とも言える。巨人が倒されたのは宇宙が生まれる前であるから、大気なども範疇に含まれるかもしれない。プレートに与えられた巨人の力とは、世界を構成する様々な属性であり、それがポケモンのタイプ(炎や水を操る力)に結び付けられたと考えられる。

 しかし、ポケモンを食する生活様式は何らかの要因によって衰退することになる。狩猟をやめるといった生活様式の変化は人々の思想や価値観にも影響を与え、世界の礎となった巨人は神話から消えてしまったのだろう。

2010/10/01