シンオウ神話を考える~語られぬ者は神か悪魔か~
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今回の内容はギラティナについての考察である。しかし、このポケモンについての材料は非常に少ない。
各所に残されたシンオウ神話には彼のものと思しき神話は見当たらない。プラチナにてようやくスポットが当てられたものの、あまり情報は増えていない。シロナ曰く、パルキアとディアルガと共に生まれたという神話があるらしいことと、フォルムチェンジが可能という二点くらいだ。
足がかりとして、まずはギラティナについての情報を整理してみよう。
- ドラゴン/ゴーストタイプである
- 「もどりのどうくつ」または「やぶれたせかい」にいる
- 「アナザーフォルム」と「オリジンフォルム」の二つの姿を持つ
- 「オリジンフォルム」になれるのは「やぶれたせかい」にいる時か、持ち物「はっきんだま」がある時
考察の起点にしやすいのは、ギラティナが住んでいるという「やぶれたせかい」だろう。この不思議な空間に関しても情報は少ないが、そこに「もどりのどうくつ」が加わると少し違ってくる。
「もどりのどうくつ」のそばには「おくりのいずみ」があり、その名前から洞窟と泉は対になった場所であることがうかがえる。
泉に「送られ」て、洞窟から「戻って」くる。これは「シンオウ むかしばなし」の内容そのものだ。即ち「もどりのどうくつ」は死の世界――いわゆる冥界に通じる場所と考えられていたと推測できる。これに倣うと、洞窟の先にある「やぶれたせかい」は冥界そのものと言ったところか。
昔の人々は、冥界に住むポケモンをどのような存在だと考えたのだろう。
神としてのギラティナ
「やぶれたせかい」に存在できるのは、ギラティナだけに限らないようだ。前回も述べたように、プラチナではユクシー達もこの世界へ入っていたし、仕組みもある程度知っているように思われる。
テンガン山の「やりのはしら」に入り口が出来たのは、パルキアとディアルガが現れたことが原因である。普段は「もどりのどうくつ」の奥のみ「やぶれたせかい」に繋がっていると考えるのが自然だ。ユクシー達が「やぶれたせかい」に出入りしていたとすると、洞窟の周辺で彼らを目撃することもあったはずだ。
昔の人々は、ユクシー達が冥界に関わるポケモンだと考えたのだろう。また、冥界との境界に存在するギラティナは彼らを従える存在に見えたのではないか、という推測も出来る。
ギラティナがこちらの世界に現れる時に「オリジンフォルム」から「アナザーフォルム」へと変化する様子を想像すると、手足の無い=魂の状態から「肉体をつけた」ように見えるかもしれない。ポケモンの骨を送る習慣は、ギラティナの姿を元にして生まれたのではないだろうか。
ギラティナは冥界の神であり、魂の象徴でもあると言える。ギラティナに関する神話が失われていなかったならば、もっと別の顔を見つけられる可能性もあっただろう。
オリジンフォルム
アナザーフォルム
ギラティナはシンオウ神話の起源(オリジン)とも言える存在なのかもしれない。
敵対者としてのギラティナ
別の切り口からも考えてみよう。シンオウ神話ではギラティナの存在が語られていなかったが、それはギラティナが「神」ではなかったからなのかもしれない。
あばれもの ゆえ おいだされたが やぶれたせかいと いわれる ばしょで しずかに もとのせかいを みていた。
これはプラチナ版のポケモン図鑑の内容である。ディアルガ達と並ぶ存在なのに、「追い出される」という記述は引っかかるものがある。
神話には神々に対する敵対者がしばしば登場する。こういった存在は、神々と戦った末に世界から追いやられるパターンが多い。ギリシア神話のティターン族あたりがわかりやすい例だろうか。
ティターン族とはギリシア神話に登場する巨人族の一つで、長のクロノスが最高神ゼウスの父親にあたる。色々あって神々とケンカして負けたので、地下にある暗くてジメジメしたタルタロスに閉じ込められた。
ギラティナも、神話においては「敵対者」の位置づけだったのかもしれない。
ポケモン図鑑によるとギラティナは「はんこつポケモン」なのだが、これはおそらく「反骨」のことだろう。大まかな意味は「権力や風習などに反抗すること」であり、神々の敵対者らしい言葉ではある。
この仮説は若干の矛盾を抱えている。シロナによれば、ギラティナは「パルキア達と共に生まれた」とされる神話が存在するというのだ。
敵対者たる存在が神々と同時に生まれたという神話はあまり見られない(神々より先であったり後であったりするものはあるのだが。これは、同時に誕生=出自が同じものであることが多いためだろう)
神話の存在が本当ならば、ギラティナもパルキア達と同じものから生まれた可能性が高い。それでは何故ギラティナは反骨ポケモンと呼ばれる存在となったのだろうか。
シンオウ神話が語り継がれていくうちにギラティナの立場が変化したと推測する。シロナの語った神話はかなり初期の頃のものだったのではないだろうか。
神話は短期間で作られるものではない。現在に伝わる神話は、長い時間をかけて変化を繰り返した末の姿なのだ。シンオウ神話も同じような過程を辿ってきたのであれば、先ほどの矛盾点も解決できる。
初めはパルキア、ディアルガ、ギラティナ(+アルセウス)が主な神であり、ギラティナはポケモン達の輪廻を司る立場にあった。後にユクシー達が加わり、それぞれの神格が確立されていく。その過程の中で、ギラティナの神格がユクシー達に移っていき、次第にギラティナは死を象徴する存在へと変わっていったと考えられる。
神格の移動は、ポケモンの骨を水の中に送る習慣が定着したことが影響だと思う。地名から考えると、この習慣は「おくりのいずみ」周辺で生まれたのだろう。
人々がシンオウ地方の各地に定住するようになると、食事のたびに「おくりのいずみ」へ骨を運ぶのは地理的に難しくなる。「水の中に送る」という形のみが受け継がれ、その結果として湖のポケモンがギラティナに代わる神になったのではないだろうか。
神としての座を追われたギラティナは、やがて世界から追い出された敵対者へと変容していく。
それでもギラティナはこちらの世界にしばしば姿を現していたのだろう。ギラティナが存在する神話が残っていることがその証左だ。神でなくなった後も「もどりのどうくつ」周辺で暮らしていた人々によって信仰されていた可能性もある。
「起源」でありながら、語られない存在となっても移ろいゆく神話に「反骨」しつづけた存在。そんなギラティナは神話の在り方を色濃く映し出したポケモンなのかもしれない。
2010/04/10