シンオウ・フィクション~神話の起源を探る~

 これまでの考察を踏まえ、シンオウ地方の信仰がどのようにして生まれ、我々の知る「シンオウ神話」に変遷していったのかをそれっぽく考えたもの。全部想像ですよ。

 リメイク前の考察まとめはシンオウ考察のまとめページ、リメイク&LEGENDSアルセウスはトップページからご覧ください。

ポケモン食の背景

 寒冷地方のシンオウでは農耕が難しいであろうことから、ポケモンを対象とする狩猟が主な食糧の入手手段となったことは想像しやすい。
 本格的な定住がはじまったのは、ズイタウンとトバリシティの近辺と思われる。ギラティナが現れるもどりの洞窟(と、おくりの泉)に近いという逆算からなのだが、それ以外にも根拠となる要素がある。

 ズイタウン付近にはズイの遺跡が存在している。遺跡があるということは長らく人が住んでいたはずだ。また、タウンマップの情報によればズイタウンは「温暖な気候」で、町の住民からも「昔からポケモンが多い土地」という情報が聞ける。ポケモンを食糧とするには適した場所と言えるだろう。更に都合の良いことに隣接する道路はラッキーの生息地であり、ポケモン以外の食糧を得ることも可能だ。
 一方で、ポケモンが多いということは、ポケモンに襲われる危険が高いとも言い換えられる。これらを踏まえて、昔の人々は現在のズイタウン周辺を主な狩場として生活を始め、後に岩山に囲まれたトバリシティ周辺に居住地を移したのだろう。

 ズイタウン近辺の事情については、ゲーム中のNPCから以下のような話が聞ける。

(1)
なんにもなかった どうろぞい
いつのまにか ポケモンや ひとが
あつまって まちに なったんだ

(2)
この あたりは むかしから
ポケモンが おおかったの
なんでも おっきな ぼくじょうとか
いろいろ あったんですって!

 ズイタウンは「何もない道路」だった時と「大きな牧場があった」時があるようだが、時系列ではどちらが先だろうか。
 道路が発展して牧場が出来たと仮定した場合。現在のズイタウンには育て屋があるが、とても「大きな牧場」と言えるような施設ではない。逆に牧場が先だった場合、「何もない道路」になった理由が無ければならないが、該当しそうな情報は見当たらない。(作中には存在しないが、「トバリの神話」が生まれる原因となった異変が起きたため、という線は考えられる)
 ポケモンLEGENDSの時代のズイ、トバリ近辺の状況が気になるところである。

信仰の始まり

 シンオウの人々はポケモンを食糧にする生活様式を始め、その骨を水で清め川に送り返す儀式が生まれることになる。便宜上、この儀式を「水おくり」と呼称することにする。

 先述したように、トバリ近辺が生活の拠点であったことも合わせて考えれば、水おくりのはじまりはもどりの洞窟とおくりの泉が関わっているのだろう。
 おくりの泉には桟橋のようなものがかかっているが、水面はかなり下にある。骨を洗うための場所でないのは明らかである。過去は水面がその高さにあったとすれば説明が付くが、そうなると戻りの洞窟の入口が水中に没してしまう問題が生じる。
 桟橋は泉に骨を捨てるためのものであり、食べ残しを狙う外敵を遠ざけたり、衛生問題を解決していたと推察する。


 狩猟生活を送る中でポケモン達への畏敬が生まれ、ポケモンの骨を捨てる行為は「送り出す」意味を持つようになる。そこにギラティナの存在が影響を与え、シンオウ神話で伝えられる水おくりが生まれた。
 それでは泉に骨を捨てる習慣は、どのような経緯で水おくりへと変わっていったのだろうか。

 改めて振り返ってみると、ギラティナが関係しているのは「ポケモンが肉体を付けてこの世に戻って来る」の部分のみであることに気付く。骨を洗って川に送り出す、という行為には関連性が無いのだ。再考察ではイオマンテに言及したが、実際のイオマンテでは骨(主に頭の骨)を祭壇に祀るらしい。別のページ(内容はあまりないので読まなくていいヨ)に関わりのありそうなネタを並べてみたが、強く類似した要素は見出せなかった。
 水おくりは現実に何かしらのモチーフがあるというわけではないようだ。何故シンオウ地方では骨を祀る(もしくは安置する)のではなく、川に流すのだろう。

(2021/8/31)モチーフがあることがわかりました。ありがとうイダイトウ。詳細は神話メモ「鮭と神話についての何か」に。
 ここでの要点は「ギラティナのフォルムチェンジがどのようにして水おくりに繋がったのか?」であること、魚が関わっており本筋には支障ないことから、内容はそのままにしておく。

(2021/12/31)後述の考察と、公式サイトのイダイトウの説明を総合すると、川を遡上するバスラオは人の世界に来ているポケモン、対するコイキングは帰っていくポケモンと考えていたのではないだろうか。
 昔の人々はコイキングは食さず、バスラオを主なターゲットにしていたとすると、現代のシンオウ地方にバスラオがいないことに何か関係があるのかもしれない。

 少し話は変わるが、ギラティナのフォルムチェンジ(オリジン→アナザー)が「肉体を付けて戻ってきている」様子であるというのは既に述べた(ギラティナ考察参照)。オリジンフォルムは言うなれば魂の状態なのだが、この姿に重ねられるものが他にもないだろうか。手足がなく、水に関わるもの……そう、「魚」である。
 シンオウ地方に限らないが、水場には必ずと言っていいほどコイキングが生息している。パールの図鑑説明文によれば、コイキングは「ゆるやかな かわの ながれでも さからえずに ながされてしまう」らしい。また、進化系であるギャラドスは奇しくもギラティナに近い体型をしている。
 川を流れるコイキングの姿に、人々は水おくりの着想を得たのではないだろうか。

 シンオウで暮らし始めた人々は、ポケモンを食して生きていた。川辺で見つけたあるポケモンは他の泳ぐポケモンに比べると動きが遅く、いかにも捕まえやすそうであった。しかしそのポケモンを捕まえようとすると、しばしば大きな姿に変身し暴れまわることがあった。その姿は「あの世から戻って来るポケモン」にも似ていたという。
 川を流されていくポケモンは自分たちが食べた骨であり、元来た世界に帰る邪魔をされて怒っているのだと考えられていた。人々はポケモンの魂が無事に帰り着くことを祈り、骨を洗い川に流すようになったという。
~文明書房刊「深奥の伝承集」より引用~

※文明書房(もんめいしょぼう)は架空の出版社です

 ギラティナの「オリジン(起源)フォルム」の名の通り、人々の信仰はギラティナから生まれたと言える。戻りの洞窟は深い霧に包まれているが、霧を晴らすと明らかに人の手で造られたと思しき遺構が現れる。ギラティナを信仰していた人々によるものなのか。
 そういえば、ズイタウンの南側には川が流れており、そばにミカルゲが出現する「みたまのとう」がある。ゲーム中のテキストによれば「そうとう昔に建てられたもの」らしいが、流石に時代は違うだろうか。

2021/06/29