シンオウ・フィクション2~湖信仰のはじまり~

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 ギラティナから生まれた信仰は、湖ポケモンへと繋がっていく。今回は三つの湖について考えてみる。

湖ポケモンの信仰

 湖に住むポケモン達は、「大地を創る力を取って来る」という世界創造に関わる一方で、「おそろしい しんわ」のような伝承も伝わっている。この二面性は、彼らが生死を司る側面を持っているためなのだろう。そうなると、水おくりにも関わっていそうだ。
 ここからは過去の考察でも述べた、ポケモンの骨は湖で洗っていたのではないか、という仮説を前提として考えていく。湖で骨を洗い川(海)に流す。この習慣はどのようにして生まれたのだろうか。

 まず、骨を洗うことについては、補足ページでも触れた、復活信仰において骨を重要視する思想が反映されているように思える。想像だが、古い身体を取り除くことで、少しでも助けになるようにと始めたことが、水おくりに組み込まれたのではないだろうか。

 ひとくちに「洗う」と言っても、骨は大小や形状も様々で数も多い。また儀式の一つである以上、それなりに時間を要したのではないだろうか。骨を洗うことに気を取られて、野生のポケモンに襲われる危険も少なからずあったのではないか。危険については複数人で見張りを立てることで対応できるが、常に人的リソースを割けていたとは限らない。
 儀式の際に伴う危険。湖のポケモンがこの問題を解消したのではないかと考えている。

 ゲームのストーリー内では、湖のポケモンは主人公に対して、少なくとも敵対的な描写は見られなかった。基本的に彼らは人に対して危害を加えてこないのだろう。
 思うに、骨を洗っている最中に、湖のポケモンが危険を知らせたりすることがあったのではないだろうか。故に、人々は湖を安全な場所として、骨を洗うようになったのかもしれない。
 勿論、ポケモンである以上は彼らも決して無害な存在ではなく、それに関しては「おそろしい しんわ」に語られる通りである。
 時に人を守り、時に人を傷つける存在。狩猟の対象とは異なる畏敬の念を見出し、人々は神話として伝えたのだろうか。

「こころ」を生んだ逸話

 湖のポケモン達は、それぞれ精神の要素を象徴するとされている。以下はプラチナ版の図鑑説明文である。

ユクシーが とびまわったことで ひとびとに ものごとを かいけつする ちえと いうものが うまれた。

エムリットが とびまわったことで ひとびとに いきるときの よろこび かなしみと いうものが うまれた。

アグノムが とびまわったことで ひとびとに なにかを するための けついと いうものが うまれた。

 いずれも人々の心に影響を与えた逸話であるが、ユクシーの知識とアグノムの意志(決意)に関しては、ある程度の仮説が出来ている。

 ユクシーはシンオウ地方の最北のエイチ湖に住むポケモンだ。エイチ湖とキッサキシティの周辺は常に雪深く覆われており、シンオウの中でも特に寒さの厳しい場所であることが伺える。ユクシーの逸話はこの土地によって生まれたと考えられる。
 寒さを乗り越えるために、人々は知恵を凝らしたはずだ。それらがユクシーによってもたらされものと捉えたことが、図鑑説明文の伝承へと繋がったのではないだろうか。

その ポケモンの めを みたもの いっしゅんにして きおくが なくなり かえることが できなくなる

 上記の「おそろしい しんわ」の一文は、ポケモン図鑑の説明文にて、ユクシーにまつわるものであることがわかる。

ちしきのかみと よばれている。 めを あわせた ものの きおくを けしてしまう ちからを もつという。(ダイヤモンド)

 これに関しても、エイチ湖周辺の土地柄の影響であろう。人々の生活が発展途上にある間は、吹雪に見舞われ道を見失い、集落に帰れずに命を落とすこともあったはずだ。そのようにして仲間が帰ってこなくなってしまった時に、人々はユクシーの仕業であるとしたのではないだろうか。

 アグノムの伝承は、「トバリの神話」の背景が関わっていると思われる。詳細は過去の考察(深堀りトバリの神話トバリで異変があった説)にて触れている。
 異変により生活が立ち行かなくなった時、アグノムが何らかの働きかけを行った(あるいは、そうであると人々が考えた)ことで、人々はトバリを離れる決意をし、新しい地で生きるための旅に出たのかもしれない。

 エムリットに関しては具体的な考察を見出せてはいない。だが、外来の人々を迎えていたであろうミオシティが近いことは、何かしら関係していそうに思われる。

 湖のポケモンが「こころ」と結び付けられるのは、彼らの存在が精神的な支柱となっていたからなのかもしれない。アルセウス達に比べて湖のポケモンにまつわる伝承が多いのは、それだけ人々にとって身近な存在だったのだろう。

そして創世神話へ

 神話に現れるポケモン達は、人々の営みと密接に関わっていた。ギラティナにより芽生え、湖のポケモン達に見守られてきた信仰は、ディアルガ、パルキア、アルセウスを中心とする創世神話を生むことになるのだが、それについてはまた後で考えます。

2021/08/17