深堀りシンオウ昔話

シンオウ昔話その1

うみや かわで つかまえた
ポケモンを たべたあとの
ホネを きれいに きれいにして
ていねいに みずのなかに おくる
そうすると ポケモンは
ふたたび にくたいを つけて
この せかいに もどってくるのだ

 この話については神話メモにて詳しく掘り下げたのでそちらを参照。
 狩猟採集民族に多く見られる鮭に関する儀礼を骨子として、いくらかのアレンジを行ったものと思われる。

シンオウ昔話その2

もりのなかで くらす
ポケモンが いた
もりのなかで ポケモンは かわをぬぎ
ひとにもどっては ねむり
また ポケモンの かわをまとい
むらに やってくるのだった

 こちらも狩猟採集民族によく見られる伝承だ。アイヌ伝承において、神(カムイ)は元々は人間と同じ姿をしており、人間の世界に来るときには毛皮をまとって動物の姿をとるとされている。
 なお、全ての動物が神というわけではなく、鹿や鮭などは獲物の神が持つ袋の中から撒かれるものらしい。しかし神でない動物であっても粗末に扱うことは許されない。この詳細はトバリ神話考察に記述している。

 人間は動物の姿をした神をもてなし、その対価として毛皮や肉を得る。神は人間の世界でしか得られないものを土産に神の世界へ戻る。そして、もてなしを受けるために、再び人間の世界を訪れる。
 人間と神はこのサイクルを繰り返して資源を贈りあっている。ここは「シンオウちほうのしんわ」に語られている内容にも当てはまるだろう。

 この昔話の中では、ポケモンは森の中で皮を脱いで眠るとされている。この記述をアイヌの伝承にそのまま当てはめるなら、森の中がポケモン達の世界(あるいは、その世界への入口)だということだろうか。
 ポケモンが飛び出してくる草むらは、人間とポケモンの世界の境界線にあたる場所と考えられていたのかもしれない。

 細かい点ではあるが、森の中で「人に戻る」という部分はアイヌの伝承と異なっていると言える。アイヌにとって動物の正体は「カムイ」であり、人間が変じたものではない。
 もっとも、ポケモンの世界にいる生物は(大別して)人間とポケモンしかいない故の改変かもしれないが。

シンオウ昔話その3

ひとと けっこんした ポケモンがいた
ポケモンと けっこんした ひとがいた
むかしは ひとも ポケモンも
おなじだったから ふつうのことだった

 シンオウ考察まとめでも触れたが、前半部分は典型的な異類婚姻譚である。アイヌの伝承にも異類婚姻譚は存在するようなので、ここではそちらとの比較をしながら掘り下げたいと思う。

 アイヌの異類婚姻譚はいくつかのパターンがあるらしい。つつがなく結ばれるものもあれば、そうでないものもある。また、神に見初められたが何らかの理由によって生前には結婚せず、死後魂となった状態で神と結ばれるという話もある。
 シンオウ昔話の中には「人と結婚したポケモン」と「ポケモンと結婚した人」と、ほぼ同じ意味の言葉が現れているが、これは結ばれた場所の違いが起因しているのかもしれない。

 シンオウ昔話の短い内容だけでは断定はできないが、アイヌの異類婚姻譚は「普通のこと」と言えるほどでは無いように思われる。
 「神は神と、人は人と結ばれるべきである」という文句が登場する話があるらしいし、先に述べた死後結ばれるパターンも、結局のところ人間のままでは神と結婚できないケースになるのではないだろうか。

 シンオウ昔話が生まれた時代は、我々が想像するよりも原始的な……アイヌでいう「人」と「カムイ」の区別もない頃なのかもしれない。

2022/01/01