ヒスイ遺跡探訪~黒曜の原野~

 「Pokémon LEGENDS アルセウス(以下LEGENDS)」の舞台であるヒスイ地方は、各地に過去のものと思われる遺跡が点在しています。今回は黒曜の原野にある遺跡から、ヒスイ地方のバックボーンを想像してみます。

シシの高台の遺跡

 黒曜の原野の中心にある「シシの高台」は、ベースキャンプの一つということもあって、訪れる機会の多い場所です。ここには壁画のほか、興味深い遺跡が遺されています。
 高台に続く道には階段の跡のような石や、何かの頭部を模したと思われる石像があります。石像は二種類あり、よく見るとディアルガとパルキアを象っているように見受けられます。非常に古いもののようですが、同じ石像があるのは同じく黒曜の原野にある「巨木の戦場」だけのようです。


シシの高台と巨木の戦場にある石像。ディアルガとパルキアの頭部に見える。

 同じ像はキング場の旗飾りの上にも置かれていますが、こちらは高台の像に比べると新しめに見えます。像の下にはコンゴウ団とシンジュ団の印が吊るされているので、彼らの時代に造られたものなのでしょう。作中では特に触れられませんでしたが、キング場の像にはどのような意味合いが込められているのかが気になります。


溶岩の戦場に置かれた旗。像の下には対応する団の印が飾られている。

 ディアルガとパルキアの石像といえば「天冠の山麓」のカミナギ寺院跡にもありますが、こちらのほうが精巧に造られています。黒曜の原野の像は、石材が異なるのか、あるいは苔生しているようにも見えます。山麓の石像よりも古いものということでしょうか。
 また、カミナギ寺院跡の像にも当てはまりますが、石像はいずれもディアルガとパルキアが相対する位置で置かれています。神社を守る狛犬のようにも見え、ディアルガ達は何かを守る存在と考えられていたと解釈できそうです。
 カミナギ寺院の像の先にあるのはシンオウ神殿。シンオウ神殿にはキング達の像も祀られており、キングはディアルガ達よりも格上の存在として扱われていたのかもしれません。
 アルセウスが「シンオウ様」であろうことは確かですが、その分身のディアルガ達は古代の人々にとってどんな存在だったのか。疑問は尽きません。

 シシの高台でもう一つ気になるのは、入り口付近にある大きな四角い石です。明らかに加工されたものに見えますし、柱が倒れたわけでも無いように思われます。
 ヒスイ地方を見渡すと、この石によく似ているものが二つ存在します。一つは霧の遺跡にある石。下側に刻まれた線はやや異なりますが、どちらも緑がかった色をしており同じ石材のようです。
 もう一つは、キング場の供え物代台です。霧の遺跡ほどではありませんが、色や形状は近いものに見えます。


遺跡に置かれた謎の石と、キング場の供え物台。それぞれ形状や色が近いように見える。
古代の石切り場のものと比べて緑がかっているのは、苔のせいなのだろうか?

 ところで、霧の遺跡には同様の石が四つ並んでいます。シシの高台とキング場の供え物台を合わせると全部で十。ちょうど、ヒスイ地方にいるキング達の数と同じになります。これは偶然なのでしょうか?
 霧の遺跡に置かれているのは、ライドポケモンのキング達のための供え物台だったのかもしれません(イダイトウもここにいたのかな?)。しかし、そのように考えると、どうして霧の遺跡にあるのは四つなのかという謎が出てきます。ライドポケモン達の数には一つ足りていません。残りの一つがシシの高台と思われるのですが、何故ここに置かれているのでしょう。
 シシの高台ではキングの一体であるアヤシシとの出会いがありました。アヤシシは、何らかの理由で高台を離れることが出来なかったのかもしれません。その理由を別の視点から探ってみます。

黒曜の原野に遺跡が少ない理由

 黒曜の原野にある遺跡といえば、先述したシシの高台と巨木の戦場ぐらいしかありません。紅蓮の湿地や天冠の山麓には人が住んでいた跡があるのに比べ、黒曜の原野はそれが極端に少ないようです。
 銀河団がやって来た頃もあまり開拓されていないようでしたが、これには二つの理由があると考えられます。

東側に比べて寒い

 ヒスイ地方にやって来るボルトロス達は、四季と畑の神とされています。しかし、LEGENDSの中で畑を作っているのは新参の銀河団であり、コンゴウ団やシンジュ団が畑を作っている描写はありません。このことから、畑の神の伝承はそれより過去の時代に生まれたと考えられ、自然と古代シンオウ人に絞られます。古代シンオウ人は農耕文明によって栄えていたのでしょう。

 ヒスイ地方の西側は東側と比べて寒冷な、農作に向かない場所だったのではないでしょうか。ヒスイ地方の東は場所に加えて火吹き島があり、地方の中でも温暖な場所と思われます。また、純白の凍土に温泉があることから、天冠の山麓周辺の地下には熱源があるようです。天冠山には昔ヒードランがいたと言われており、地中にマグマがある可能性は高いでしょう。

侵略者の存在

 東が寒冷地であるからというだけでは根拠に欠けます。より寒冷地である純白の凍土に集落があったという情報に加え、LEGENDSの時間軸でもシンジュ団が住んでいるからです。何故彼らは黒曜の原野ではなく、純白の凍土を選んだのか? その理由として、侵略者の存在の可能性が考えられます。

 古代シンオウ人は農耕文明だったと考えましたが、農耕民族は狩猟採集民族の襲撃を受けることが現実の歴史上でも見られるようです(21世紀にも起きていた模様。コワイ)。ヒスイ地方にも、西側からそういった侵略者が来ていたのかもしれません。
 この侵略者の存在が、シシの高台に供え物台が置かれた理由ではないかと考えます。侵略者の存在を見張り、バサギリとともにヒスイ地方の前線を守るのがアヤシシの役割だったのではないでしょうか。
 あるいは、昔はシシの高台もキング場だったのかもしれません。


霧の遺跡に並ぶ台。ここでライドポケモン達を労っていたのかも?

他の遺跡も謎ばかり

 ヒスイ地方に点在する遺跡の多くは物語の中ではほとんど触れられないままでした。例えば霧の遺跡にある黒い石、いったい誰が何の目的で積んだのでしょう? 古代シンオウ人の遺跡、あるいはそうでないもの……ヒスイ地方の遺跡は謎めいたものばかりですが、だからこそ想像力を掻き立てられます。
 遺跡をゆっくりと眺めてみれば、普段何となく見ていた背景にも新しい発見があるかもしれません。

2022/04/09