無限大エナジーは闇なのか?

無限大エナジーってなあに

 無限大エナジー(ムゲンダイエナジー、∞エナジー)は、ポケモンORASで登場したエネルギーである。ポケモンの生体エネルギーが由来で、開発したデボンコーポレーション(以下デボン)はこれを基盤に成長したと言及される。おそらくは前作XYの新要素メガシンカエネルギーに絡めた設定を追加したと思われる。

 無限大エナジーの由来に関して、マイナスの印象を抱いた人は多いのではないだろうか。実際、Googleでデボンを検索するとサジェストに「闇」が出てくる。シーキンセツ関連のイベントのせいでもあるのだろうが、それに引きずられて無限大エナジーも「良くないもの」と考えてしまうのかもしれない。
 しかし考えてみて欲しい、これらはプレイヤーが受ける印象が先行しているのではないだろうか。我々は無限大エナジーを誤解しているのではないか? という逆張りをするページです。

ポケモン世界の見えない「格差」

 ポケモン世界の人々は、ポケモンの力を様々な形で活用している。ルビー・サファイアの冒頭ではゴーリキーが引っ越しを手伝っていたし、ソード・シールドではポケジョブという要素も登場した。人々の生活とポケモンはもはや切り離せないものになっていることが伺える。これを踏まえて一つの例を考えてみたい。

 とある企業がポケモンの力で発電出来る家庭向け発電機を開発した。発電機は二種類あり、いずれも価格や発電効率に差はない。チャージビームの技マシンは一般に流通しているものとする。

  • A:電気タイプのポケモンが使う技「チャージビーム」で発電する。
  • B:「チャージビーム」で発電する。技を使うポケモンの種族は問わない。

 この二つのうち多数の人が使えるのはBだろう。Aの発電機は電気タイプのポケモンを(環境、個人の問題などで)所持していない人には利用できないのに比べて、Bはその問題をクリアしている。しかし、Bの発電機はチャージビームを習得できるポケモンがいなければ使えないという課題を残している。
 もっと言えば、チャージビームを覚えられるがまだ習得してないという場合、既に習得している場合と比較して「技マシンを買う」というコストが生じることになる。いずれの発電機にも「所持するポケモンによって格差が生じる」という根本的な問題が存在していると言える。

 作中の描写を見ると、一般の人が持つポケモンは多くて四匹ほどで、数多く所持するのはブリーダーやエリートトレーナーなど、ごく一部に限られるようだ。ポケモンの力を利用したシステムがあったとして、それを使えるかが所持しているポケモンによって左右される。これは、ポケモン世界において避けることの出来ない格差と言えよう。
 振り返ってみると、過去にもある種近いテキストが存在していた。

「人は いつしか ポケモンと 力を あわせ 多くの ものを うみだした
 それにより 人の 中に 指導者が あらわれた
 指導者は より 多くの ものを うみだそうと した
 そうして 人の あいだに 上下が うまれてしまった」

(フラダリラボの資料)

豊かになるということは、格差をなくすこと

 前述の例について言えば、タイプも技も関係ないポケモンの力で発電できる=ポケモンを持っていれば誰でも使えるのが最も理想的な発電機だ。限りなく格差を取り払ったエネルギーが無限大エナジーなのではないだろうか? デボンの先代社長の理念「人々やポケモンの暮らしを豊かにしたい」を体現していると言って良いのかもしれない。

 無限大エナジーは三千年前のカロスの王AZが造った最終兵器が発想の元になっているという。フラダリラボに残された文献によれば、AZは優れた科学技術を有していたそうだ。いわば無限大エナジーはポケモン世界の科学技術の粋であり、「科学の力ってすげー!」を体現したものの一つと解釈することも出来る。
 AZも格差をなくす方法を模索していた過程で、件のエネルギーを生み出したのかもしれない。彼の存在がステップを早めたというだけで、いずれは無限大エナジーに近いものは生まれていただろう。それにしても、三千年前にゼロから無限大エナジーのシステムを創出したAZは、どれほど有能だったのか……。

科学と絆

 ソード・シールドでも名前の似たポケモンが登場しており、もしかするとこの先にも触れられる機会があるのかもしれない。ただ無限大エナジーの存在がポケモンというゲームを面白くしてくれるかと言うと、難しいところだ。
 同時期に登場したメガシンカや、最新作のLEGENDSアルセウスでは、人とポケモンの絆がフィーチャーされていた。対する無限大エナジーは心や絆が介在しない科学の領域であり、ある意味ポケモンのテーマと相反するものだからだ。
 仮に前述した格差を完全に取り払える技術が実現したとして。それがポケモンバトルの領域にも及んだ時を想像するとうすら寒いものを覚える(流石に極論だが)。無限大エネルギー、ひいては科学の善し悪しは使う人次第なのである。

 ポケモン世界の人々は、また別の道も模索している。その一例がポケモン図鑑やトレーナーズスクールだ。これらは「皆が優れたトレーナーになる」ことで問題解決を目指していると言えるだろう。
 2022年冬に発売が予定されている新作スカーレット・バイオレット(公式サイト)では、主人公達は学校の制服のような服装で描かれている。LEGENSアルセウスにおけるポケモン図鑑のように、トレーナーズスクール(ポケモン世界の学校)についても何かしら触れられるのかもしれない。
 また、人とポケモンの絆を作品のメインに据えるのなら、その対比(あるいはまた別の何か)として科学技術にもスポットが当てられることも考えられるだろう。ポケモン新作では何が描かれるのか、期待しながら発売を待ちたいところだ。

2022/05/21