ルギアについて

 ジョウトの伝説ポケモンに関する考察で、まだ触れていないポケモンがいます。潜水ポケモンルギアです。
 ジョウト地方には、ホウオウやホウオウ伝説に関わるスイクンら三匹に関する伝説があります。一方、ルギアに関する伝説は、ほとんど(まったく、と言ってもよいかもしれません)見られません。
 ホウオウと対を成す立場を暗示しながら、このポケモンはジョウト伝説に登場しないのです。それは何故なのでしょうか。

図鑑からルギアを探る

 ジョウト伝説に材料はほとんど無いため、図鑑の記述から探ってみることにしましょう。以下は、各バージョンのポケモン図鑑の説明です。

つよすぎる のうりょくを もつため ふかい うみのそこで しずかに ときを すごすと つたえられる。(金)

うみのかみさま と つたえられる ポケモン。あらしのよる すがたを みたという はなしが つたえられる。(銀)

あれくるう うみを しずめるほどの すさまじい ちからを もつ。あらしに なると すがたをみせる とつたわる。(水晶)

つばさを かるく はばたかせた だけで みんかを ふきとばす はかいりょくを もっている ために かいていで ひとしれず くらす ように なった。 (RSE

ふかい かいこうのそこで ねむる。ルギアが はばたくと 40にち あらしが つづくと いわれている。(DP

  1. ルギアは深海に住む「海の神」である
  2. 嵐と深い関わりがある(と考えられている)

 図鑑から読み取れるのは、主に上記の二点です。嵐を起こしたり、逆に鎮めたりもするといった、自然(=海と嵐)を神格化したものに近い見方をされていたようですね。神聖さを強調したホウオウとは異なるものを感じます。
 しかし、嵐の神格化とすると違和感を覚える部分があります。金とRSEの図鑑の記述です。

 自然は、時に人間に牙をむきます。特に嵐といった大きな災害を起こす自然現象は、畏怖の対象となりやすいものです。
 しかし、「静かに時を過ごす」「海底で人知れず暮らすようになった」といった記述は、むしろ穏やかな性格であることを示すようです。ルギアが嵐の神格化であると見られたならば、嵐のように激しい気性であったほうが自然です。
 ルギアは「海の神」かつ嵐を起こす力を持ちながら、嵐の性質を持っていないというのでしょうか?

もう一つの「海の神」

 見方を変えてみましょう。ルギアは「海の神」で、上記の通り穏やかな性格であると考えるとどうでしょうか。ポケモンから少々離れますが、この性質は北欧神話の神ニョルズに似ているように思えます。

 彼(ニョルズ)は風の動きを支配していて、海や火を鎮める。それで、航海したり、魚をとったりするとき、人はこの神に祈願すると良いのだ。(ギュルヴィたぶらかし)

 また、北欧神話には荒れ狂う海の性質を象徴する存在――巨人エーギルがいます。穏やかな海はニョルズ、荒れ狂う外海はエーギルというように、海の二面性を別々の神(巨人)に充てているわけです。
 これに倣うと、ルギアはニョルズのように穏やかな海の性質を象徴していたのではないか、という予想が浮かびます。
 では、荒れ狂う海は? アサギシティでは灯台にデンリュウを祭って航海の安全を祈っていたようですから、ジョウト周辺の海にも少なからず危険があったであろうことは確かです。ルギアがニョルズであるなら、エーギルの立場にあたるポケモンもいなくてはなりません。

 実は、該当しそうなポケモンが存在します。キングドラです。ルギアと同じく金銀にて初登場したこのポケモンは、ジョウト地方に生息こそしていないものの、各図鑑には渦潮を発生させるといった記述が目立ちます。

ふだんは かいていどうくつに みを ひそめているらしい。あくびで うずしおを はっせいさせる。(金)

ちからを たくわえるため ふかい かいていで ねむっているらしい。めざめると たつまきに なるという。(銀)

どんな いきものも おりられない ふかい うみのそこで ねむりながら ちからを たくわえている という。(クリスタル)

 キングドラが渦潮や嵐を起こし、ルギアがそれらを鎮める。このように考えられていたとすると、図鑑の記述とも合致しそうです。
 生息していないポケモンを見ることは出来ないので、ジョウト伝説が生まれた時代にはキングドラがいたのでしょう。その後、何らかの理由でキングドラがジョウト地方から姿を消したため、キングドラが担っていた外海の性質がルギアに統合されたのではないかと思われます。

 或いは、そもそもジョウト地方にはキングドラがいなかった可能性もあります。他の地域では伝説のポケモンとして扱われており、それがジョウト地方に伝わった、という流れです。同じように扱われているポケモンとしては、ウインディが代表的です。
 キングドラの図鑑の説明が「~という」といった形になっているのは、「姿を見かけることが無いのは、海底にいるからだ」と考えたためでしょう。

語られない伝説の存在

 海神としてのルギアを掘り下げてみましたが、ホウオウと比べて伝説と言えるような言い伝えが登場しません。「神」と呼ばれるポケモンとしては、不可解な点ではあります。一体何故なのでしょうか。

 更に予想になりますが、ルギアの伝説は存在しないのではなく「語られなかった」のではないかと思われます。
 金銀では「やけたとう」にいたスイクンらと、ホウオウの関係が示唆されました。ジョウト地方を駆け回るポケモンの存在は、プレイヤーに強い印象を与えたことでしょう。
 クリスタル版でホウオウ伝説がさらに強調される形になったため、相対的にルギアの伝説に関する記述が少なくなってしまったのではないか、と。

 ジョウト地方を見渡してみると、エンジュにはホウオウ伝説、キキョウのマダツボミのとう、フスベにはドラゴンポケモンというように、それぞれの街ごとに深い繋がりのあるポケモンや、伝説が存在しているようです。
 クリスタル版はスイクンがメインですから、自然とホウオウ伝説にスポットがあたります。場所的にもバラバラの伝説を掘り下げつつ、かつホウオウ伝説に関わりを持たせるのは困難でしょう。ルギアに関する伝説に触れられなかったのは、ある意味で必然とも言えます。

 ジョウトには「マダツボミのとう」や「アルフのいせき」など、歴史を感じさせる場所が数多く存在します。ゲーム中で語られないままの伝説は、まだまだあるのかもしれません。

 カントー・ジョウト再考察にてルギアについても考察していますので、興味があればご一読ください(文体が違うのは許して)


2009/08/19