ジョウト地方の伝説の成り立ちを想像する
このページは過去の考察(ホウオウ考察、ジョウト再考察)を再構成したものです。
ジョウト伝説概要
ジョウト地方にすむ伝説のポケモンといえば、ホウオウとルギア、ライコウ、エンテイ、スイクンの五匹が挙げられる。彼らにまつわる伝説の中でも、ホウオウが蘇らせたポケモンがライコウ達になったという話は、ゲームをプレイした人は強く印象に残っているだろう。
クリスタル版でより描写が追加されたこともあり、「ホウオウは実際にライコウ達を蘇らせた」と解釈している人は多いかもしれない。しかし、本当に起きた出来事であるとするには疑問がある。というのも、ポケモン図鑑にはライコウ達の別の出自が書かれているのだ。
あまぐもを せおっているので どんなときでも かみなりを だせる。かみなりとともに おちてきたという。(ライコウ/金)
あたらしい かざんが できるたび うまれてくると つたえられる だいちを かけめぐる ポケモン。(エンテイ/銀)
いっしゅんで きたなく にごった みずも きよめる ちからをもつ。きたかぜの うまれかわり という。(スイクン/金)
伝えられているという結びから、これらの情報は事実ではなくそのように考えられているもの、つまり原義的な意味での「伝説」と言える。
仮にホウオウ伝説が事実であったとすると、ポケモン図鑑に採用されているのが言い伝えの方であることについての説明がつかない。(寡聞ではあるが)ホウオウ伝説に触れる際、図鑑の説明文にも言及している考察は何故かまったく見当たらないのも不思議である。
ホウオウについての図鑑に書かれているのも「輝きながら空を飛ぶ」という情報ぐらいだ。もしポケモンを生き返らせる力を持っているのなら、例えば「傷を癒す力を持つ」というような記述があってもおかしくないが、これまでの図鑑にはそのようなものは無い。
これらの要素から、ホウオウがポケモンを蘇らせた逸話は、図鑑の説明文と同じ類の伝説であると見るのが自然である。加えて図鑑に採用されている点を考慮すると、ホウオウ伝説は図鑑のものより新しい、一部の地域(エンジュシティ周辺だろうか)に伝わるものなのだろう。
それでは、ホウオウ伝説、そして図鑑に書かれている伝説はどこから来たのだろうか?
今回はジョウト地方の伝説がどのようにして生まれたのかを考察していく。
何故塔は建てられたのか
エンジュシティには二つの塔がある。ホウオウが舞い降りるスズの塔と、そして火災で燃えてしまったカネの塔。エンジュの他にも、キキョウシティのマダツボミの塔など、ジョウト地方には古くから存在する塔がいくつかある。
これらの塔は、そもそも何の目的で建てられたのだろうか。スズ(カネ)の塔を建てた所に、たまたまポケモンが降りるようになったという可能性は低い。何故なら、ジョウト地方にはもう一つ、同じような塔が建っていたからだ。
コガネシティのラジオ塔は、古い塔を取り壊して建てたものだ。塔を建て替える際、元の塔の最上部からポケモンの羽根が見つかっている。羽根の色はバージョンによって金色、銀色に変わり、クリスタル版では地中に透明な鈴(ホウオウに会うために必要なアイテム)が埋まっていたと変更されている。
以下は金銀版のラジオ局長の台詞の一部だ。
コガネにも とうが あったが
ふるくて たおれそう だったから
ラジオとうに したんだよ
その こうじの とき
とうの いちばん うえで
みつかったのが その ハネなんだ
むかしは コガネでも
おおきな ポケモンが
とんでいた というからね
コガネシティの塔にもポケモンが舞い降りていたことがわかる。二つの街に同じような塔が存在するのは、偶然とは思えない。おそらく、これらの塔は空のポケモンを降ろすために建てられたのだろう。ならば、ポケモンを降ろす目的は何なのか。
理由を探るために、ホウオウ達のポケモン図鑑説明文を見てみよう。
なないろの みごとな つばさで せかいの そらを とびつづけると しんわに つたえられる ポケモン。(ホウオウ/金)
からだは なないろに かがやき とんだあとに にじが できると しんわに のこされている ポケモン。(ホウオウ/銀)
こころただしき トレーナーの まえに なないろの つばさを ひからせながら すがたをあらわすと つたえられる。(ホウオウ/クリスタル)
つよすぎる のうりょくを もつため ふかい うみのそこで しずかに ときを すごすと つたえられる。(ルギア/金)
うみのかみさま と つたえられる ポケモン。あらしのよる すがたを みたという はなしが つたえられる。(ルギア/銀)
あれくるう うみを しずめるほどの すさまじい ちからを もつ。あらしに なると すがたをみせる とつたわる。(ルギア/クリスタル)
虹が出来る、嵐を鎮めるなど、天候に関わる記述が目立つ。特にルギアは嵐との関連が強いようだ。
ホウオウの説明文の「虹が出来る」は、言い換えれば雨雲が晴れるということでもある。つまりホウオウとルギアは、どちらも好天にする力を持つという伝説が伝わっているのだ。
ジョウト地方の塔は、ポケモンを降ろすことで、好天ひいては豊作を願うために建てられたのではないだろうか。
ホウオウの図鑑には「姿を見ると幸せになる」「羽根は幸せをもたらす」という記述もあるが、豊作によって豊かになることが変じて、このような伝承が生まれたと考えられる。
ライコウ達についても、天候に関わる信仰が存在していたのだろうと考えられる。
春雷という言葉があるように、雷は春の訪れを知らせるものとされている。火山の噴火は日照不足や降灰で作物を傷める一方、噴火で生じる火山灰は植物がよく育つ土壌を作る。
昔は種撒きや収穫の最適な時期を知るために、季節の変化に敏感だった。ジョウト地方の人々は、空のポケモンは実りをもたらし、大地を駆けるポケモンは季節の巡りを報せると考えていたのではないだろうか。
街の名前にもそれと思しき名残がある。エンジュシティの由来のエンジュ(槐)は、農地などを守る防風林に使われることもある樹木だ。コガネシティの黄金色は、街の情報(きんぴか にぎやか はなやかな まち)では都会のネオンを指すようだが、黄金色は穀物が実る様を表す色でもある。
昔はエンジュシティからコガネシティにかけて、大きな農地があったのかもしれない。
ポケモン世界の人々の感性
ここまでの考察は現実の例を基にして考えて来たわけだが、LEGENDSアルセウスで、ポケモン世界の人々も同様であることがわかった。
ヒスイ地方の紅蓮の湿地には「金色の平野」という地名がある。ここには黄色い穂をつけた植物(形としてはススキに近いだろうか)が群生しており、遠目に見れば黄色の絨毯のような光景が広がる場所だ。
この地名の存在から、ポケモン世界の人々も先述したような感性を備えていることが読み取れる。

金色の平野。採集アイテムの「いきいきイナホ」とは形が異なるので、稲とは別の植物なのかもしれない。
遺跡との関係
ポケモンを降ろすために建てられた塔だが、これにはとあるポケモンが関わっている可能性がある。
ジョウト地方の塔がある街、エンジュシティとコガネシティとキキョウシティの位置を見てみると、塔以外にもう一つの共通点が浮かび上がる。三つの街は、いずれもアルフの遺跡の近くにあるのだ。

塔がある街は、アルフの遺跡周辺に集まっている。
アルフの遺跡にはシンボルポケモンのアンノーンがいる。アンノーンは古代文字に似ている、形に意味があるらしいと言われており、人間に何かを伝えるための能力を持っているように思われる。
また、遺跡の中でラジオを使うと謎の電波を受信する。これはアンノーンのテレパシーという説があるが、アンノーン同士がテレパシーで会話しているのであれば、受信も出来るはずである。アンノーンには、ポケモン達の思念をテレパシーを介して受け取り、人に伝える能力があるのではないだろうか。
ジョウトの空を舞うポケモン達は、翼を休める場所を求めていたのだろう。その意思をアンノーンが人に伝え、ポケモンに降りて来てもらいたい人は塔を建てた。
アンノーンが人とポケモンを繋いだ結果、ジョウト地方の塔は生まれたのかもしれない。
ホウオウ伝説の誕生
エンジュシティに伝わるホウオウの伝説は、先述の信仰と、カネの塔の火災が合わさったことにより生まれたと考えられる。火災が起きた時、雨が降りその後虹がかかった(あるいは、ホウオウが実際に現れた)ことで、人々はホウオウが火災を鎮めたと思ったのではないだろうか。
この逸話に、ポケモンを蘇らせたエピソードが加えられたのは、ホウオウの太陽信仰が元だろう。太陽を呼び、植物を育てる力を持つホウオウは、生命を復活させる力も持っていると解釈されたのではないか。
三匹のポケモンを蘇らせたという話になったのは、シンオウ神話が影響している可能性がある。
リメイク版で追加された「シント遺跡」は、シンオウ地方から来た人が建てた遺跡であり、昔にジョウトとシンオウの間に交流があったことを示している。
遺跡の中のみつぶたいから、ジョウト地方に伝わったのはアルセウスが三体のポケモン(ディアルガ、パルキア、ギラティナ)を生み出した神話の可能性がある。この構造をホウオウ伝説に当てはめて、エンジュシティのホウオウ伝説が誕生したのではないだろうか。
文明が発達し、人はポケモンの信仰に頼る必要は無くなった。ポケモンを降ろす必要もなくなり、塔は役割を失った。
ホウオウ伝説が生まれたことで、スズの塔は「伝説の証拠」という新しい役割を得た。もしもカネの塔の火災が起きていなかったら……スズの塔も、コガネシティの塔と同じ運命を辿っていたのかもしれない。
ホウオウとスイクンの関係
クリスタル版のホウオウ伝説では、スイクンは「ホウオウにもっとも近いポケモン」という設定が追加されている。
これはライコウ達に宿った力が理由だろう。ライコウは「塔に落ちた雷」、エンテイは「塔を焼き尽くした炎」、スイクンは「火を消した雨」であるが、スイクンを除く二つは火災(=ポケモンの死)の原因となった要素である。必然的に、火災を鎮めた雨を宿したスイクンがホウオウに近い存在と言えるだろう。
加えて、もう一つの伝説「水を清める力」も関わっていると考えられる。
多くの図鑑説明文で、スイクンは濁った水を清めることが出来る力があるとされている。中には「世界中の水を清めて回っている」という記述もあり、この伝説はかなり広い地域に伝わっている可能性がある。もしかすると、水を清める力を実際に持っているのかもしれない。
水は植物の成長において、日光に並んで欠かせない要素だ。春の温もりや肥沃な大地も確かに必要ではあるが、日光と水の重要性には及ばないだろう。
水に関わるポケモンである故に、スイクンは他の二匹より格の高い存在として扱われていた。それがホウオウの伝説にも受け継がれたのだろう。
ルギアが現れなくなった理由
ここまでホウオウに焦点をあててきたが、ルギアについても触れていこう。エンジュシティでは、カネの塔が焼けてからはルギアが現れなくなったという。塔が無くなったこととルギアが姿を消したことには、何か関係があるのだろうか。
ポケモン図鑑によると、ルギアは海底で過ごすなど、水中に適応した生態をしているようだ。また、嵐の夜に姿を現すという情報もある。このことから、ルギアは空を飛ぶのがあまり得意でない可能性が浮上して来る。
エスパータイプのルギアは念力で自身の体を軽くしていると思われるが、おそらく飛行するには力が足りず、風を利用しているのではないだろうか。強風が吹いているときに空を飛行するため、必然的にルギアの目撃は強風の時に限られる。そこから「ルギアは嵐を起こす」と考えられるようになったのではないか。
嵐にくわえて「夜」という時間も、他の鳥ポケモンと空で遭遇することを避けているのかもしれない。

うずまきじまから近い塔は、いずれも失われてしまっている。
改めてジョウト地方の地図を確認してみる。ルギアが住むうずまきじまに最も近いのはコガネシティ、次いで近いのはエンジュシティのカネの塔。いずれも現在は失われてしまっている塔だ。ルギアはコガネシティの塔や、カネの塔を使って、空に上がっていたのかもしれない。
コガネシティは海に近い位置にある。かつて建てられた塔は潮風で腐食し、ルギアの体重を支えきれなくなっていたのだろう。その時期に前後して、カネの塔の火災が発生した。そのため、火災以降ルギアが現れることが少なくなった。
ルギアはうずまきじまに留まるようになり、海の神としての伝説が残ったのだろう。
ポケモン達を伝説たらしめるもの
ホウオウ達に関して確実に言えるのは、図鑑に書かれた情報以上のことはわからないということ。このページでは、ライコウ達を蘇らせた物語は人々の想像としているが、本当にそのような力を持っている可能性も否定出来ない。
個人的には「伝説は人が生み出す」というのが大元にあるため、ライコウ達を蘇らせた伝説もそうであってほしいと思っている。でなければAZが払った犠牲は一体
一方で「本当に生き返らせているかもしれないかもね」と思う余地も残されていて、そこが伝説のポケモン達を魅力的なものにしている要素であるのも事実だ。
最近のポケモンシリーズは、ファンタジーにありがちな「伝説の再現」の物語に傾いている(詳細はXYZの妄想を参照)。
製作も色々と事情があるだろうから仕方ないのだが、伝説の根本はいつまでも変わらないでいて欲しいなぁとも思うのである。
2022/01/01